2019年2月3日(日)、第8回基礎力養成講座を行いました。

 今年度の最終回です。

 メインレクチャーは農学部・グリーン科学技術研究所の河岸洋和先生、通称「きのこ博士」による「フェアリーリングの謎を化学で解く」。公園やゴルフ場などで芝生が輪状に周囲より色濃く繁茂し、後にキノコが発生する現象があり、フェアリーリング(fairy rings,妖精の輪)*1,*2,*3,*4 と呼ばれています。その妖精の正体(芝を繁茂させる原因)は長い歴史の中で謎でしたが、先生はキノコの菌糸体が植物成長促進物質を作り出していることを明らかにしました。今回の講座では、その発見の経緯、分子の構造、様々な植物に対する成長促進効果のほか、世界の食糧問題の解決や新しい植物ホルモンとしての可能性など、さらなる研究の進展を話されました。また、自然界に存在する天然物化合物を発見することの面白さや重要性についても強調されました。受講生からは成長促進物質は動物に対する効果があるか、この物質を生成するのに触媒が必要か、コストはどうか、種子には成長効果は引き継がれるかなどの質問が出ました。

 午後のワークショップは、前回のメインレクチャーの内容を受けて、「Can human being communicate with plant (with help by AI)?」をテーマに、What is “communication”? Do you have an idea of better communication? の視点から英語でグループワークを行いました。Communication is understanding. We get information, if plants grow very big. We can say it is good communication. AI can grow plants without human. If plants want water, machine gives water. ・・・ など様々な意見が出ました。英語ワークショップは4回目、ほとんどのグループが英語でのプレゼンテーションになりました。約半年の基礎力養成講座で、英語ポスター発表の機会に触れ、タイの高校生との交流、英語ワークショップの準備やディスカッションを通して、英語運用力が高まったと実感した受講生も多いことでしょう。

 3月24日は研究力養成コース、発展コースの受講生の研究成果発表会が行われます。


*1
キノコの輪「フェアリーリング」の不思議とは? 植物の成長物質が引き金 食糧問題の解決に貢献も
産経ニュース 2016.9.19 09:45
*2
“フェアリーリング” の化学と “フェアリー 化合物” の植物成長調節剤としての可能性
河岸洋和 化学と生物 Vol. 52, No. 10, p.665-670, 2014.
*3
“フェアリーリング”の化学と “フェアリー化合物” の植物成長調節剤としての可能性
河岸 洋和,化学と生物 Vol. 52, No. 10, p.665-670, 2014. (J-Stage版)
*4
フェアリー化合物 ―「フェアリーリング(妖精の輪)」の妖精の正体は?―
静岡大学 グリーン科学技術研究所 教授 河岸 洋和

河岸洋和先生の講義

河岸洋和先生の講義

フェアリーリング(fairy rings,妖精の輪)

フェアリーリング(fairy rings,妖精の輪)

グループ討論・ワークシート

グループ討論・ワークシート

ワークショップ・グループ討論

ワークショップ・グループ討論

<受講生の感想など(ニュースレター掲載分を含む)>

 天然物化学とは偶然の発見や出会いが大きな学術的価値を生み出したり科学技術の躍進へつながったりする学問なのだと思った。もちろん,科学の発展は偶然の発見だけでなく現象に対する観察眼や科学的思考,論理的な証明が伴って,初めて成されるのだろう。けれどもその第一歩として,偶然の発見,出会いに着目し,いったん立ち止まって思案すること,それは科学研究において極めて大切なことの一つであると感じた。どのようにして,科学の躍進への種が秘められた偶然の発見を見逃さずに拾い上げていくのか。それに秘められた大発見の種を見極めるセンスと,その小さな発見を大きく発展させる力を磨き鍛えていくことが,私を含めて研究者を志す者がすべきことなのだと悟った。
(横浜市立南高等学校 R.K.)

 天然物化学は自然界に存在する他の生物の力を借りて人間だけの力では作れない、新たなものを生み出すための力となっている。この学問をより深めていけば、未知なる世界へと私達を連れて行ってくれるかもしれない。もちろん無数にある経路の中から、しかも問いには予想もしてこなかったところから出てくる道を探し出し、極めるのは大変難しい。運任せになってしまう部分も多いだろう。然し、そんな苦難も乗り越え、独自の合成経路、高収率で天然化合物を得られた時の達成感、充実感はきっと素晴らしいものに違いない。だからこそ、自然界を学びの師とする天然物化学を発展させていくことが人類の発展のために必要であり、今の私たちが最もするべきことなのだと考える。
(静岡雙葉高等学校 A.N.)

 今回の講義を受け、日本人向きで多くの可能性を秘めた天然物化学という学問を、探求し広めてみたいという興味が沸いた。成功すれば人々の生活の質を大幅に改善することができるものを開発できる可能性をひろげることができ、自分の見つけた化合物が他の人の研究材料となったり、役立ったりするのはとてもうれしいことだと思う。何事も基礎はとても大事だと思うので、直接人の役に立つものでなくとも、多くの人に夢を与え、役立つものの基礎を作れることはとても誇らしいことだ。天然物化学はそれを実現できる学問なのではないかと思う。
(韮山高等学校 R.U.)