2022年10月16日(日)基礎力養成コース第5回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
2022年10月16日(日)は、オンライン形式で第5回のメインレクチャーとサブレクチャーを行いました。
メインレクチャーは、理学部化学科の松本剛昭先生の「マイナス270℃で気体としてふるまう物質」でした。松本先生は、水素結合を専門とする研究者です。分子間の水素結合を詳しく調べるためには、極低温で分子の集団をバラバラにしていく必要があります。そこで、松本先生が極低温をつくる方法として用いたのは超音速ジェット法でした。
私たちの周りにある空気中の窒素分子や酸素分子は、音速の1.5倍ほどの速さで、四方八方に飛び回っています。ところが目の前のたった1cm3ほどの空間にも気体分子がたくさん含まれているため、分子同士は衝突を繰り返し、速さもまちまちです。このような状態の気体を、細いノズルから真空に近い容器に吹き込むと、ノズルの先に超音速のジェット噴流ができます。このジェット噴流の中では、気体分子が同じ向きに、同じ速さで飛んでいくため、ほとんど衝突が起こりません。この現象を利用して-270℃に近い極低温で分子が気体としてふるまう状態をつくることができました。
この噴流に極性を持った分子を少しだけ混ぜると、数個の極性分子が集合した微粒子(クラスター)ができます。極性分子同士を繋いでいるのは水素結合という弱い結合ですが、極低温の噴流中では分子間の衝突がなく壊れません。この噴流に含まれる物質の赤外線吸収スペクトルを測定すると、クラスター中の分子同士がどのように結びついているかを推測できます。松本先生は、この方法でピロール2分子、メチルピロール1分子でできたクラスターの新たな構造を見つけることに成功しました。
質疑の時間に受講生からは、「他に物質を-270℃にする方法はないのか」「温度計はどうやって温度を測れるのか」「ピロールの環状部分に水素結合ができるのはなぜか」という質問が出ました。松本先生からは、受講生の疑問について理論的な解説がされました。さらに宇宙での物質生成や分子レベルで生命活動を探究する上で、重要な結合が水素結合であることが伝えられました。
サブレクチャーの「統計学 その1」では、静岡大学の教養科目として動画が作成された「数理・データサイエンス入門」の一部を視聴しました。科学の研究では、実験や観察を通して多くのデータを収集することになります。このサブレクチャーを通して、集められたデータが有する性質を見極めること、データの代表値を分析すること、グラフなどを用いて可視化することを学んでいきます。
「尺度水準」の項目では、データを質的データと量的データに分類することを学びます。質的データの中には、名義尺度と順序尺度という尺度水準があります。また、量的データの中には、間隔尺度と比率尺度があります。実験や調査で得るデータが、どの尺度水準に分類されるかを見極めることが必要であり、この項目ではその方法を学びます。
「代表値」の項目では、データの全体的な傾向から大きく離れた外れ値の見分け方を学びます。操作ミスや記録ミスで起こる異常値は、四分位偏差を用いると、外れ値として機械的に検出できます。
「データの可視化」では、データの特徴を可視化するためのグラフの表し方を学びます。例えば、箱ひげ図は平均点、中央値、最大値、最小値、第1四分位点、第3四分位点という多くの情報を同時に表すことができます。一方、箱ひげ図はデータの散らばり具合を細かく表現できないため、データの分布密度を表すことができるバイオリンプロットも有用です。またグラフを描く時には、見やすさにも心がける必要があります。軸や目盛りの長さ、太さ、色、文字の大きさ、フォントなど、見やすいものを選んで使うようにします。さらに、データがもたらす情報を誤解されないように、縦軸、横軸が何を示しているか、単位は何か、図中の線や記号が何を示しているかなどを明示していくことが大切です。
受講生は、全部で7本の動画を視聴したうえで、振り返りフォーム中の小テストを受け、受講が完了します。