2023年4月16日(日)研究力養成コース第1回、ワークショップを行いました。

 2022年8月に入校した受講生は、二次選抜を経て2023年1月より研究力養成コースに進みました。現在、受講生は静岡大学の各研究室で、大学教員の指導による研究活動に取り組んでいます。これと並行して、静岡大学未来の科学者養成スクールが掲げる6つの「つなげる力」の内、「分野横断的な発想力」「研究を社会の課題解決へつなげる視点」「課題解決を目指した討論力」を育成する場としてワークショップを月1回程度実施しています。

 2023年4月16日(日)は、静岡市環境局環境共生課との共同プログラムで、放任竹林問題に取り組みました。

1.谷津山フィールドワーク
  講師・指導 やつやま友の会の皆さん
 
 谷津山は、静岡市中心部近くの住宅街の中にある標高108mの小高い山です。1980年頃までは茶畑やミカン畑が広がり、静岡らしい景観の山でした。時代の流れとともに、農地としての役割を終えた畑などが放置され、タケノコ用に植えられた孟宗竹が繁殖し、山全体が竹林になってしまいました。この谷津山を野生生物の良好な生息環境となるよう、また市民の憩いの場になるよう竹林の管理活動を始めたのが、やつやま友の会の皆さんです。
 
 午前中は約2時間かけて、やつやま友の会の皆さんの指導の下、放任竹林の現場でフィールドワークを行いました。
 
 午前10時にふもとの清水山公園(静岡市葵区音羽町)をスタートして山頂に向かいました。
途中、谷津山に生息する植物や動物のつくる自然環境、放置された茶畑のようす、放置された竹林と管理された竹林の違いなどを観察しました。

午前10時、清水山公園からスタート。


谷津山の生物環境の説明を受ける。住宅街の真ん中にある谷津山は、多様な生物による生態系が広がっています。


放置された茶畑


静岡市環境共生課が、やつやま友の会の活動を紹介する。


竹が密集する放任竹林

 山頂に着くと、竹の伐採体験です。竹を倒す方向を決め、竹を引き倒すロープを張り、のこぎりを入れます。切り倒した竹は、枝を払い、持ち運びやすいように短く切り分けます。1本の竹を倒すのにも数十分かかる重労働です。受講生は、代わる代わるヘルメットをかぶり、のこぎりを手にして竹を切る感触を確かめていきました。

静岡市環境共生課が、やつやま友の会の活動を紹介する。


倒す方向を決めた上で、竹を切る。


 

切った竹の枝を掃う。


運び出しのため、竹を短く切る。


 午後は大学に戻り、2つの講義を受けました。
 
2.[講義Ⅰ]静岡市の放任竹林問題
  講師 静岡市環境共生課 八木 駿 氏

  日本には、約600種類の竹があり、いずれも地下茎で繁殖します。私たちの生活の中では、食用、物を入れる容器、文房具などいろいろなものに竹が利用されてきました。そのため、多くの竹林は人の手で管理されていました。ところが、竹需要の減少や農業後継者の不足などから、放置された竹林が増えてきました。特に静岡市周辺では人の手が入らなくなった茶畑やミカン畑の竹林化が著しくなってきました。
  この放任竹林には次のような問題点が指摘されています。
①生物多様性の低下
 竹林が放置されると、成長が速い竹は短い期間で他の植物を圧倒していきます。他の樹木に比べ、竹の背が高くなってしまうと、それまで山を覆っていた樹木に日が当たらず枯れていきます。植物の多様性が失われると、そこに集まる動物の多様性も失われていきます。
②水源涵養機能の低下
 竹は地下茎で繁殖し、その根は土の中の浅い部分を横に広がっていきます。地中深くに根を伸ばす他の樹木が枯れてしまうと、土壌が水を貯える能力が低下してしまいます。
③地滑りなどの災害の危険
 静岡市周辺では、住宅地に近い里山の急傾斜地が竹林化しています。竹の地下茎や根でつながってしまった土の表層部分は、土砂崩れの原因になります。

静岡市環境共生課 八木氏から、静岡市の放任竹林対策について講義を受ける。

 このような課題を抱える静岡市は、竹林を管理する団体への援助、体験学習の機会の提供、資源として竹林の利用を活性化するなどの施策を通して、この問題を解決しようとしています。
 
3.[講義Ⅱ]竹林の資源としての利用について
  講師 静岡市沼上資源循環学習プラザ 重岡 廣男 氏

 静岡市沼上資源循環学習プラザは、ごみの再利用や資源の有効活用について市民が学習する社会教育施設です。様々な啓発プログラムがあり、小学校向けの学習支援も行っています。
 その一環として、放任竹林の竹を竹粉にし、それを生ごみと混ぜることにより堆肥をつくり、農業や園芸に活用する取り組みを行っています。伐採された竹と生ごみを新たな資源としてとらえ、私たちの生活と里山の自然の間を循環させていこうというものです。重岡氏の講義では、このような事例紹介を踏まえ、放任竹林問題を経済活動に取り込むことによって解決するという考え方が示されました。

静岡市沼上資源循環学習プラザ 重岡氏から、資源としての竹の活用に関する講義を受ける。

 現在、都市近郊の里山を覆っている竹林は、このまま放置されれば私たちの生活や豊かな自然環境を脅かす厄介者になってしまいます。しかし、竹の繁殖能力の高さを活かしたバイオマスとして竹林をとらえることで、循環型経済を目指すことが可能になります。未来の科学者を目指す受講生の高校生たちに、重岡氏から「生物模倣技術が、次世代の科学技術の鍵である。自然環境には次世代の産業のヒントが眠っている」というメッセージが伝えられました。

講義後の質疑応答


講義後の質疑応答


 県内各地あるいは隣県からFSSに参加している受講生たちにとっては、身近な里山にあり、生まれた時から見慣れた竹林が、「放任竹林」という問題を抱えていることを初めて知る機会となりました。また、ボランティア団体、行政など、多くの方々が地域課題に取り組む姿を見ることができました。講義後の質疑の時間には、受講生から放任竹林の対策についていろいろなアイディアが飛び出しました。
 次回5月28日には、今回のフィールドワークで経験したことや2つの講義で得た情報をもとに、放任竹林の科学的解決策についてのプレゼンテーションを行います。現在研究力養成コースで取り組んでいる研究分野にも何かヒントがあるかも知れません。既存の方法や常識に囚われない独創的な解決策が示されることを期待しています。