2023年7月23日(日) 基礎力養成コース 第1回入校式およびメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

2023年7月23日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(略称:FSS)は基礎力養成コースの第1回目講座として入校式、メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

本年度の受講生は昨年度より15名多い58名でスタートします。受講生の所属校も静岡県内だけでなく、山形、群馬、千葉、神奈川、愛知、岐阜、大阪と全国に広がりました。中には、以前のFSSで活躍した先輩たちの研究に刺激を受けて静岡大学FSSを志望したという人もいました。

受付を済ませる新規受講生


入校式の開始を待つ受講生

定刻になり、FSS運営委員長の粟井光一郎先生(静岡大学理学部)の司会で入校式が始まりました。最初の静岡大学理事・副学長の塩尻信義先生の挨拶では、FSSのスローガンである「つなげる力で世界にはばたけ」に込めた願いが伝えられました。学問の様々な分野をつなげる。参加者同士のつながりをつくり議論する。アイディアを研究につなげる。成果を社会につなげ役立てる。自分と世界をつなげる。つなげることで、分野横断的な広い視野の下、豊かな国際性を持ち、協働して社会課題に取り組み、未来の社会を創る人材を育てたいという静岡大学の願いが込められています。「FSSでは能力と感性と可能性を持った受講生ひとりひとりが自信をもって主役になってほしい。そして研究の面白さに触れ、わくわくしながら研究を深めていくことが自分自身の成長につながることを体感してほしい」と、受講生に対する塩尻副学長の期待が述べられました。

続いて、静岡県立掛川西高等学校 内野元貴さんが受講者を代表して抱負を述べ、入校式が終了しました。

副学長の塩尻信義先生よりFSSの趣旨が述べられる。


受講生代表 内野元貴さんの挨拶

入校式の後、メインレクチャーを行いました。講師は本年度より静岡大学に新設されたグローバル共創科学部の池田恵子先生です。

グローバル共創科学部は、地球や地域社会が抱える諸課題に対して、人文・社会科学から自然科学に至る広汎な知をつなぎ、複眼的観点から社会的課題を捉え、その中で「総合知」を生み出し、活用できる人材である「共創型人材」を育成することを目的としています。

池田先生のメインレクチャーのタイトルは「自然災害は自然現象か」です。地震や台風という自然現象と災害という人間社会に起こる現象のつながりを考える講義でした。講師からは、自然災害の被害の規模や被災地の社会的背景を類推するためのデータとともに、6つの検討課題が提示されました。

検討1 阪神・淡路大震災と鳥取県西部地震の比較
検討2 日本の自然災害による死者・行方不明数の変化
検討3 ハイチ地震とチリ地震の比較
検討4 バングラディシュのサイクロンによる高潮災害 年齢別・性別の死亡率
検討5 東日本大震災 性別・年齢別の格差
検討6 東日本大震災 障害の有無による格差

受講生たちは講師が提供した資料をもとに考察をめぐらし、お互いに意見交換を行いました。自然災害の被害の大小には、社会インフラなどの構造的要因と法整備や文化・教育などの非構造的要因が影響していることが議論されました。

講義後提出された振り返りレポートには、次のような受講生の意見が書かれていました。「社会の災害脆弱性またその時の社会構造によって全く異なる被害が起こることを知りました。」「『自然災害は単に台風や洪水などによって人的被害が生じることではなく、その引き金となる要因(ハザード)と暴露量・脆弱性があり、それをレジリエンスによって抑えたうえで起こるもの』という着想は、防災の分野にとどまらず研究分野、ビジネス分野でも活かすことのできるものだと思った。」

メインレクチャー講師 池田恵子先生


自然災害における社会的背景や文化的背景を考察する講義


講義の中で意見交換をする受講生


初対面でも積極的に議論する様子が見られる。


講義後にも質問の列ができる。

次にサブレクチャー「研究者倫理及び研究結果の取り扱い」を行いました。

サブレクチャーは、研究者や技術者として必要な知識やスキルを獲得する目的で受講するものです。講師は静岡大学名誉教授の瓜谷眞裕先生が担当しました。

瓜谷先生は、6年前にスタートした静岡大学FSS第Ⅰ期の立ち上げや運営に尽力されました。冒頭、FSS(未来の科学者養成スクール)を受講することで受講生が獲得を目指す「6つのつなげる力」についてのお話がありました。

FSSでは
 1.分野横断的な発想力
 2.研究を社会の課題解決につなげる視点
 3.課題解決を目指した討論力
 4.発想を成果につなげる研究遂行力
 5.研究成果を外部に発信する挑戦力
 6.世界とつながる国際性
を身につけるためのカリキュラムが組まれています。FSSでの研究体験がより実りあるものとなるよう、講義やワークショップに臨む姿勢、研究ノートの活用の仕方など、受講生としての心構えが伝えられました。

続けて本題の「研究者倫理及び研究結果の取り扱い」の講義に移りました。講義前、受講生は配布されたワークシートに自分自身がイメージする科学者像・技術者像、社会における科学者・技術者への期待などを記入しました。講師が講義中にいくつかのアンケート結果を示し、受講生自身が持つイメージとの共通点や異なる点を比較しながら講義が進んでいきました。科学者・技術者の研究は社会的な信頼や付託の上に成り立つものです。しかし科学者・研究者の陥る罠に捏造、改竄、盗用という3つの不正行為があります。これらの不正行為は科学の本質に反する行為です。信頼される未来の科学者・技術者となるため、FSSのカリキュラムを通して、正しい研究活動や研究発表のやり方を身に着けていかなければいけません。

サブレクチャーに関する振り返りレポートには、次のような意見が書かれていました。「不正行為は科学者・技術者の信頼を損ねうる行為である。これらの行為は故意であるだけでなく、意図せずに起きてしまっても許されない行為であるため細心の注意をするべきである。」

社会から信頼される研究者としての倫理観を考える講義


サブレクチャー講師 瓜谷眞裕先生


事前に記入したワークシートを使いながら、科学者・技術者のイメージを共有していく。