2023年8月6日(日)基礎力養成コース 第2回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

 2023年8月6日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第2回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

 メインレクチャーは理学部生物科学科 後藤寛貴先生による「姿が異なるオスとメス −クワガタムシから見る雌雄で異なる形態形成メカニズム− 」です。後藤先生は、昆虫の体の形が作られていくメカニズムや体の雌雄差が起こる理由を研究しています。

クワガタムシの大顎の形成を通して、雌雄差形成の分子発生メカニズムを探る。

メインレクチャー講師の後藤先生

 生物学の研究は「至近要因」と「究極要因」の2つの問いによって進んでいきます。例えば「動物の体にはなぜ雌雄差があるのか?」という問いには、どんな答えがあるのでしょうか。雌の体が大きいことによって、体内で卵などを作る能力が増し多くの子孫が残せます。反対に、雄の体が大きい動物は、雄間の競争で少数の雄が繁殖を独占し、より生存に有利な遺伝子を継承することができます。したがって「雌と雄のそれぞれの繁殖戦略の結果、子孫が多く残せる形質を持つようになった」と理由を考えることができます。このような進化生態学的理由を「究極要因」と言いますが、検証が難しいという一面もあります。

生物学には「至近要因」と「究極要因」の「2つのなぜ」がある。

「至近要因」について問いが投げかけられる。

 一方で同じ種の動物のゲノムは雌雄でほとんど同じなのに、なぜ体の形に大きな雌雄差が現れるのでしょうか。この問いに切り込むことが「至近要因」を追究するということです。後藤先生は、クワガタムシの大顎形成のメカニズムを研究する中で、幼若ホルモンの働きに着目しました。昆虫の幼虫の体の中にある幼若ホルモンは変態を抑制するホルモンです。栄養豊富な環境にいるクワガタムシの体内では幼若ホルモンの濃度が高くなり、クワガタムシの雄の幼虫はその幼若ホルモンによって大顎の発達が促されます。ところが雌の幼虫では、メス型性決定遺伝子(dsx)によって、幼若ホルモンの働きが抑制され顎の発達が進みません。このようにクワガタムシの体の極端な雌雄差は性決定遺伝子のホルモン応答性制御によって起こる現象であるということが分かりました。

 多くの受講生が後藤先生のお話に興味を持ち、講義後には活発な質問が飛び交いました。「ハチ、アリ、シロアリなど雌雄によって役割が異なり、多数の個体で集団をつくる昆虫の雌雄決定はどのようにして起こるのか。」「アブラムシのように季節によって繁殖のしかたが異なるのはなぜか。」「性決定遺伝子(dsx)はどのタイミングで雌雄の働きの違いが決まるのか。」生物の体に雌雄差が生まれる原因について、分子発生メカニズムを探る研究に興味が喚起された様子でした。
 

2回目のメインレクチャーで、質問も活発になる。

 サブレクチャーは理学部地球科学科 生田領野先生によるワークショップ「理系の文章作成方法(パラグラフ・ライティング)①」を行いました。

 パラグラフライティングとは、文章全体をトピック(話題)毎に分け、一つの段落(パラグラフ)を一つのトピックに充てる文章作成方法です。理系の研究論文などを書くとき、研究内容を順序立てて分かりやすく表現するための重要なスキルです。この講義では6〜7名を一班としたグループワークを行いました。受講生は一人1台ずつノートパソコンを持参し、パソコン上でホワイトボードアプリを使います。アプリの中では書いた文章を付箋として貼り付けたり図を書いたりすることができ、自分が書いた文章を班のメンバーで共有し、批評し合う活動を行いました。

サブレキチャー講師の生田先生

初めてのグループワークで人間関係作りを行う。

絵描きしりとりを行い、珍回答の続出で和やかな雰囲気ができる。

 まず本題に取りかかる前に、アイスブレークとしてこのアプリを使う練習を兼ねて「絵描きしりとり」を行いました。言葉を用いずに他の人のイメージを読み取ることは難しく、珍回答の続出で、各グループが笑いに包まれ和やかな雰囲気が作られました。

 次に講師からパラグラフライティングの基本的な文章構成とルールが説明され、さらに課題となる6つのトピック文が示され、これを元に各自の文章作成が始まりました。「人生は○○のようだ」という一般的な話題や「『自然災害』は『自然現象ではない』」というメインレクチャーで登場した話題などを取り上げたトピック文の中から、受講生は1つトピック文を選び、そこにサポート文(トピック文を補助する文章)を書き加えて1つのパラグラフ(段落)を完成させます。全員が1つずつパラグラフを作成した後、講師が提示したルーブリックにしたがってお互いの文章を採点しました。最も高得点を得た文章を班代表として推薦し、班の中で報告者を決め全体に推薦理由を説明しました。

作成したパラグラフを、お互いに評価する。

報告者として、最も評価の高かった文章の紹介をする。

 このパラグラフライティングのワークショップを通して、理系研究の成果を発信するための文章作成方法を学びました。同時に、グループワークでお互いに意見を交わすことで、初対面の人とコミュニケーションを取り、協働して取り組む活動でお互いの役割を意識するなど、これから研究を進めていく上で大切な資質を身に付ける機会となりました。受講生同士の人間関係を作りながら、和やかな雰囲気の中にも率直に討論をする環境ができました。

グループワークでの討議