2023年8月27日(日)基礎力養成コース第3回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

 2023年8月27日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第3回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。今回の講座は浜松キャンパスの工学部の教室を会場にしました。浜松キャンパスは浜松市の中心市街地に近い丘陵にあり、大学周辺の環境も静岡キャンパスとは異なる雰囲気を持っています。

会場の静岡大学工学部(浜松キャンパス)

浜松キャンパスで講義の開始を待つ受講生。

 メインレクチャーはグローバル共創科学部 下村勝先生による「ナノの世界でのものづくり」です。下村先生は静岡大学工学部で「有機分子と無機固体の界面に関する研究」、「色素増感太陽電池」「有機無機ハイブリッド材料」などの研究に取り組んでこられました。2023年4月から新しく設置されたグローバル共創科学に籍を移し、研究を継続されています。

 講義のタイトルにある「ナノ」とは10憶分の1を指す接頭語です。1ナノメートルとは1mの10憶分の1(10-9m)のことで、原子や分子の大きさの領域になります。このスケールで原子や分子を制御する技術が「ナノテクノロジー(nanotechnology)」です。このナノテクノロジーを使ってものづくりをするためには、トップダウン型のアプローチとボトムアップ型のアプローチがあります。例えば、集積回路はあらかじめ決められた設計図に基づきながら半導体の表面に微細な電子回路を書き込んでいきます。このようなアプローチをトップダウン型と言いますが、原子や分子の大きさに近づくにつれ、制御が難しくなります。
 

講義は対面とオンラインのハイブリッドで行われた。


 
 一方で、物質の化学的な性質を応用した自己組織化という現象を用いるボトムアップ型の手法を用いると、さらに微小な構造を持つ材料を作ることができます。界面活性剤を酸化亜鉛の一部の結晶面に吸着させ、特定の結晶面だけ成長できるようにすると「ナノロッド」という微細な棘状の結晶を金属板表面に作ることができます。このような微細な構造は新たな機能を生み出すため、例えば空気中のウィルスや細菌の除去に利用するなど、私たちの身の回りの困りごとを解決する技術として期待されています。
 講義終了後、受講生からは活発に質問が出てきました。「1つの技術を確立するために試作はどのぐらい繰り返すのか」「大型のコンピューターを使ってシミュレーションを行い、効率よく実験はできないのか」などです。温度や圧力によって異なる化学反応が起こることもあり、その分実験結果に対する予測は難しくなります。また原子数が多くなるとシミュレーションに用いる計算が複雑になり、実際に実験をするとシミュレーション通りにはならないとのことでした。現在も、スーパーコンピュータを利用した計算を実施されているとのことでしたが、より高度な計算のできるコンピュータがもっと身近になると、シミュレーションもより高精度になるとのことでした。

自律的に秩序を持つ構造を作り出す現象の例。

狭義の自己組織化と広義の自己組織化


 
 サブレクチャーはFSS事務局コーディネーター 瓜谷眞裕先生による「研究提案書の作成」を行いました。受講生たちはこれから約1か月かけて研究提案書を作成し、提出された研究提案書の審査を受け、40名が研究力養成コースに進みます。研究力養成コースでは各学部の研究室に配属され、静岡大学の研究者による研究指導を直接受けることになります。 

サブレクチャー講師の瓜谷先生


 
 瓜谷先生からは、FSSのカリキュラムの中で研究力養成コースではどのような力を養うのか、研究とは何かの説明がありました。文部科学省の科学技術・学術審議会報告において「大学等における学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として行われる知的創造活動であり、人間の精神生活を構成する要素としてそれ自体優れた文化的価値を有するものである」との記述を見ることができます。このことを念頭に、高校生が研究テーマをどのように設定したらよいかが解説されました。
 次に研究提案書の作成手順が示され、研究成果が出た場合の発信の場や発信のしかた、自分の研究を着実に研究成果に結びつけるための研究ノートの付け方など、研究力養成コースに関するガイダンスが行われました。研究ノートは第1回講座で学んだ「研究者倫理」を反映したものであることが重要です。そのために、研究実施記録の媒体としての機能、研究推進のための思考整理ツールとしての機能、能力育成の記録・振り返りのための機能という研究ノートの3つの機能が発揮されるよう、何を記録すべきかが具体的に説明されました。

文部科学省の科学技術・学術審議会報告のURL
 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1247106.htm

受講生とのやりとりをしながら講義が進む。

FSSのプログラムの中で身につける6つの力。


研究提案書の作成手順