2023年9月10日(日)基礎力養成コース第4回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
2023年9月10日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第4回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。今回の講座は、静岡キャンパスと自宅にいる受講生をオンラインでつなぎ、リモート形式で実施しました。
メインレクチャーは理学部生物科学科 粟井光一郎先生による「光合成をわかった気になる話」です。
光合成は小学校から高等学校まで生物分野の理科の授業で何回か学んできています。小学校では緑色植物に光を当てると二酸化炭素と水から糖と酸素をつくるはたらきがあることを学びました。中学校では、光がこの反応のエネルギー源であることと植物細胞の中で光合成を行う葉緑体の姿を学びました。さらに高等学校では、光合成が複雑な化学反応の連鎖であることを学びます。葉緑体の中では光エネルギーによってATPとNADPHという2つの物質が生成し、その化学エネルギーと還元力でカルビン回路という一連の化学反応が起こります。このように理科の授業では馴染みが深い「光合成」です。
そこで粟井先生の講義では、光合成を行う生物がどのような起源で生まれてきたかという生物進化的視点と、光合成が起こるチラコイド膜の化学的構造やそれが細胞内でどのように形成されるかという生化学的視点の2つの視点から、「光合成」という生命の活動を明らかにしていきました。
原始地球では、光合成の能力を獲得したシアノバクテリアが、光合成機能を持たない従属栄養性真核生物に取り込まれることで、細胞内に葉緑体を持つ生物が生まれてきたと考えられています。そのように生まれてきた光合成を行う生物は、私たちがよく知っている被子植物や裸子植物だけでなく、緑藻、紅藻、珪藻、ユーグレナ類など地球上に広く見られます。
光合成の中心となるチラコイド膜は幾重にも積み重なった膜構造を持ちます。この表面で光合成電子伝達系という複雑な過程を経て、化学エネルギーの元となるATPと還元力を持つNADPHが効率よく合成されます。このATPとNADPHは、二酸化炭素を固定するカルビン回路の中で使われます。この光合成を効率よく進める場となるチラコイド膜の構造が細胞の中でどのように形成されるかは生物の体の仕組みを研究する上で大きなテーマとなります。
粟井先生の研究室では、このように地球上に生物が繁栄した謎に迫る研究が行われています。講義を聴いた受講生は、オンラインシステムを使い質問をしました。光合成反応の中でも酸素を用いず硫黄を用いる場合の反応生成物に関する質問、シアノバクテリアを真核生物が取り込む一次共生が起こるしくみとその後の二次共生が起こるしくみについて構造上の差異に関する質問などが相次ぎました。
サブレクチャーは理学部生物科学科の 石原顕紀先生による「知的財産権について」を行いました。
「知的財産権」とは知的財産基本法第二条に定められている、人間の創造的活動により生み出される発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物、商標、商号などに発生する権利です。知的財産には物理的実体がなく、同時に複数の人によって使用される可能性があるため、他者の使用を制限し知的活動の成果を公開した者の権利を保護する法律が必要です。同時に知的財産権の保護には、知的成果の公開を促す目的もあります。講義では、科学技術の研究者に関わりの深い、特許権、実用新案権、商標権、著作権について解説がありました。
講義は、科学技術の進歩のなかで生まれた新たな研究成果や発明、サービスが社会に還元される場面で生じたエピソードを交えながら進められていきました。私たちの生活に特に身近な話題としては、青色LEDの発明にまつわるものがあります。青色LEDが発明されたことで薄型で省エネルギーを実現したテレビやパソコンのモニターが普及するなど、大きな社会的インパクトがあった発明でした。2014年に発明者はノーベル物理学賞を受賞しましたが、青色LEDの実用化の過程では特許権者と職務発明者の関係が大きな議論になりました。
また、研究者にとって倫理上の大きな関わりを持つのが著作権です。著作権は研究の成果を論文などで発表する際に注意を要する知的財産権です。他人の論文の著作権の保護、自分が発表する論文の著作権など、研究活動を進める上で常に意識をしていなければいけない権利となります。
高校生が学習目的で著作物を複製するときに許諾を求められることはありません。したがって高等学校の中では知的財産権の重要性を感じる場面は多くありません。しかし研究者にとって知的財産権を尊重する態度は大切な資質です。静岡大学FSS基礎力養成コースでは、「研究者倫理」「研究提案書の作成」「知的財産権」の3つのテーマによるサブレクチャーを通して、研究者にふさわしい倫理観の醸成を行いました。