2023年11月19日(日) 基礎力養成コース 第9回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

2023年11月19日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第9回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。

今回のメインレクチャーは理学部化学科 小林健二先生による「分子のかたちと集合 〜分子から超分子へ〜」です。小林先生は有機化学を応用した分子の集合体(超分子)の研究者です。分子が集団として振舞うと個々の分子では見られない新たな性質や機能が発現する可能性があります。この分子集団の集合組織化を制御することを目的としたのが、小林先生が取り組む超分子化学の研究です。

メインレクチャー講師の小林健二先生。

有機化合物はひとつひとつの分子の構造の違いで多様な性質を持ちます。有機化合物の機能と分子の構造との関係を知ることができる身近な例が香りです。果物の香りの成分の多くはエステルという特有の構造を持った分子です。ただ、お互いに似た形の分子でも、わずかな構造の違いで、人間には全く違うにおいとして感じられます。

炭素原子の混成軌道をもとに、分子の形の理由を考える。

 このような有機化合物の構造を理解するためには、分子の骨組みとなる炭素がどのように結合してどのような形の分子を作るかを知る必要があります。炭素原子は、L殻にある4個の価電子がs軌道、px軌道、py軌道、pz軌道の4種類の電子軌道を使い、隣の原子とσ結合という共有結合をつくります。σ結合をつくるとき、電子はお互いの静電反発を避けるように空間にひろがります。それを混成軌道といいます。例えば、メタン分子では炭素原子のs軌道1つとp軌道3つがsp3混成軌道をつくり、4つのσ結合の電子がエネルギー的に等価な正四面体の頂点方向に広がった形になります。炭素原子がつくる混成軌道にはsp3混成軌道、sp2混成軌道、sp混成軌道という3つのタイプがあり、その組み合わせで有機化合物の構造が決まります。

分子模型を手に取りながら、分子の立体的なイメージを養う。

 次に、分子が集合体を作るときに大きな役割を果たすのが水素結合です。分子の集合体として身近なものといえば氷ですが、液体の水の温度が下がると、水素結合という比較的弱い結合で水分子同士が規則正しい向きに結び付き氷の結晶ができます。また、遺伝情報を担うDNAは、2本の大きな分子が水素結合で相補的に組み合わさった二重らせん構造をつくり、必要に応じてほぐれたりくっついたりしています。これらは自然界の超分子の一例です。この水素結合の仕組みを応用すると、分子が意図した形に集合した、新たな機能を持った超分子をつくることができます。大きな分子が小さな分子を選択的に取り込んだり、籠のような構造の分子が小さな分子を規則正しく並べたり、分子マシーンを作ったりと、超分子化学は新たな可能性を秘めた研究分野です。

 講義は量子化学という難しい理論に基く内容であったにも関わらず、受講生からは分子の形に関する質問が相次ぎました。また、休憩時間に入ってからも小林先生から説明を受ける姿が見られました。

講義終了後も、小林先生への質問が続く。

サブレクチャーは教育学部 室伏春樹先生によるワークショップ「プレゼンテーションの要点」を行いました。

FSSの受講生は研究力養成コースに進むと研究発表やワークショップの課題発表でパワーポイントなどのプレゼンテーションソフトウェアを使うことが多くなります。このサブレクチャーでは、発表内容が伝わりやすい資料作成のポイントを学びました。受講生が自分のパソコンを持参し、室伏先生が Google スライドで作成した資料を教材にして、Google Classroom でデータのやりとりをしながら講義が進みました。

サブレクチャー講師の室伏春樹先生。

 講義で示された発表資料作成のポイントは次の通りです。
 1.発表の原則を決める(配色、フォント、画面レイアウト)
 2.構成を決める(アウトライン)
 3.伝達手段を工夫する(写真、図式化)

例えば、数字の 0 (ゼロ)とアルファベットの O (オー)、数字の 1 (イチ)とアルファベットの l (エル)は見分けがつきにくいことがあります。このようなとき、フォント選びを工夫することで読み間違いが起こらないようにすることができます。また、発表の構成を考えるときに、ストーリーを言語化して話す内容を検討しますが、発表資料の中では発表項目に階層構造をつくることで自分の主張を明確に伝えることができます。

各自、自宅からパソコンを持参し、プレゼン作成ソフトの機能を確かめる。

一通りの解説が終わると、受講生たちは課題に取り組みました。課題は「最近の科学技術に関するもので興味をひいた話題の要約と感想・考えたこと」を3〜5枚のスライドにまとめるというものです。プレゼンテーションソフトの機能で分かりにくいところは、講師やTAの大学生が巡回してアドバイスを行いました。作成中の課題は自宅で完成させ、12月中旬までに Classroom に提出される予定です。