2023年12月9日(土) 基礎力養成コース 第10回特別メインレクチャーと2022年度入校生研究成果紹介を行いました。

 2023年12月9日(土)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第10回目講座として特別メインレクチャーと2022年度入校生研究成果紹介を行いました。

 特別メインレクチャーは、スター精密株式会社上席執行役員の寺尾和芳氏による講演「シリコンバレーで学んだこと −人的ネットワークの重要性−」でした。寺尾氏には、アメリカのシリコンバレーで会社を設立し、海外のスタートアップ企業と協力して新規事業の立ち上げにチャレンジしたときの経験と教訓をお話しいただきました。

特別メインレクチャー講師のスター精密株式会社上席執行役員 寺尾和芳氏

 スター精密株式会社が作る小売店などで使うレジ用プリンターは、世界で2番目のシェアを誇っています。しかし同社では、情報技術の進歩により紙のレシートがなくなる時代を予測して、新たな製品開発に取り組んでいます。企業の事業開発が常に時代の先取りを求められる中、寺尾氏はアメリカのシリコンバレーに数年間滞在し、新規事業の立ち上げに挑戦しました。

シリコンバレー(アメリカ)でスタートアップ(起業)を支援するしくみの説明

 日本と比べて環境変化のスピード、意思決定のスピード、開発のスピードのすべてが速い中で、失敗を繰り返しながら「最大のリスクは失敗を恐れて何もしないこと」「いかに人的ネットワークを広げ、自分を助けてくれる人をより多く作る事が一番重要」など多くの教訓を学んだそうです。これらは、企業で働く場合に限らず、高校生たちが研究者や技術者を目指す上でも貴重な助言となりました。そして人脈づくりのポイントとして「自分と違う価値観や考え方を持った人とつながること」「海外留学やイベント、セミナーに積極的に参加すること」などが述べられました。寺尾氏のお話から、良い人的ネットワークを作るために、自分が何者なのか、自分は何ができるのかと客観的に自己理解することの大切さを知ることができました。

 後日受講生から提出された感想には、次のようなことが書かれていました。「講義内で印象に残ったことは、自分のダメなところを他人にさらけ出し、積極的に人に助けを求めようとする姿勢だ。」「失敗してもいい、それを次に活かして失敗を恐れずに早くチャレンジすることが大切ということを聞いて、勇気が出ました。」「完璧にできなきゃいけないと学校で構築された考え方は捨ててもいいんだと解釈することができた。」受講生たちは寺尾氏のお話に心を大きく動かされた様子でした。

受講生から海外の企業風土などに関する質問が相次ぐ

講義終了後も、寺尾氏への質問が続く

 後半は、2022年度に入校し、現在研究力発展コースに在籍している受講生の代表3名が、約1年間の研究成果を発表しました。
 最初は、静岡県立伊豆伊東高等学校の石井響音君による「拡張現実(AR)によるリアルなロボットの動きと映像キャラクターの統合表現」の発表でした。この研究は、2023年9月に東京理科大学葛飾キャンパスで開催された映像情報メディア学会2023年次大会で発表した研究です。研究内容は、ロボットの動作と同じ動作をAR (Augmented Reality)でも表現することで、人間とロボットのコミュニケーションを可能にする技術開発です。この研究は、街の中の接客ロボットなどがよりエンターテインメント性の高い体験を提供できるようになることを目指しています。

研究力発展コースの石井君が、学会発表を行ったことが紹介される

 2番目は、静岡県立焼津中央高等学校の水澤紗良さんによる「変形菌(真性粘菌)の温度耐性」の発表でした。この研究は、2023年10月に開催されたグローバルサイエンスキャンパス令和5年度全国受講生研究発表会で発表したものです。水澤さんは真性粘菌であるモジホコリを高温や低温のストレス環境で培養し、成長や衰退の様子を分析しました。真性粘菌が温度ストレスにさらされた時にどのような反応を示し、生き延びていくのかを明らかにすることを目的とした研究です。

研究力発展コースの水澤さんが粘菌の研究発表を行う

 3番目は、静岡県立静岡高等学校の小泉剛愼君による「空気中の水の捕集効率を上げるには」の発表でした。この研究は、2023年10月に開催されたグローバルサイエンスキャンパス令和5年度全国受講生研究発表会で審査委員長特別賞を受賞しました。小泉君が小学校6年生から取り組んできた撥水の研究をもとに、空気中の水を取り出す装置の開発をしました。ステンレスメッシュを立体的に重ねた構造を用い、粗さ・表面特性によって水滴を引き込む力に差が出るのかを調査しました。

研究力発展コースの小泉君が、空気中の水を捕集するデバイスの発表を行う

 これから研究力養成コースに進む2023年入校の受講生たちは、自分が取り組もうとしている研究に近い分野の発表もあり、先輩たちの発表を興味深く聞いていました。さらに、自分が計画した研究について直に意見交換をするなど、早速入校年度を越えた交流が始まりました。また、振り返りレポートには次のような感想が書かれていました。「それぞれのやりたいものを伸ばすことで一つの研究となることがわかった。色々な角度から物事を考えていく力をより高めていきたい。」「研究目的は身近なものから大きな社会問題まで考え方はさまざまであることがわかった。」「研究者としてどんな能力が必要なのか改めて感じることができ、自分にとってとても良い刺激になりました。」

 今回の基礎力講座の最後には、第Ⅰ期(2017〜2021年度)の修了生3名がリモートで参加し交流会を行いました。第Ⅰ期の受講生はすでに大学生だったり社会人だったりします。FSSで自分たちがどんな研究テーマに取り組んだか、その体験が大学生や社会人としてどのように生かされているかなどが紹介されました。これからFSSの受講を経て大学を目指す高校生にとって、進路選択のロールモデルとして参考になる出会いとなりました。
 静岡大学FSSが掲げる6つの「つなげる力」のうち主に「分野横断的な発想力」「研究を社会の課題解決へつなげる視点」の獲得を目指した基礎力養成コースは、この第10回講座をもって終了です。受講生の中で二次選抜の選考を経た人たちは、研究力養成コースに進み「発想を成果につなげる研究遂行力」「研究成果を外部に発信する挑戦力」を養います。自分の研究テーマに関しては、すでに11月下旬から静岡大学各研究室の研究者と受講生との間で打ち合わせが始まっています。また1月からは、約1か月に1回の割合でワークショップを行い、「課題解決を目指した討論力」「世界とつながる国際性」を身に着けていきます。

リモートで行ったFSSⅠ期修了生との交流会