2024年4月21日(日) 研究力養成コース第4回として「放任竹林問題①」を行いました。
2024年4月21日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は研究力養成コースの第4回講座としてワークショップ「放任竹林問題①」を行いました。
今回の講座は、静岡市環境共生課との連携で実施されました。静岡市は市街地に近接した山林で放任竹林が広がるという解決困難な課題を抱えています。このワークショップでは、放任竹林の実態をフィールドワークで観察し、原因を知り、グループワークで解決に向けたアイディアづくりを行います。一連の活動で、FSSの科学研究と講座で身につけたスキルや考え方を用いて、社会課題の解決のために研究成果や技術を社会実装するプロセスを学んでいきます。
午前中は、静岡大学の敷地内にある竹林で、竹林内の植生や竹の植物としての特徴を観察しました。最初に講師の静岡大学生物科学科 徳岡徹先生より、大学の敷地内で多様な植物が観察できることや、植物を分類する過程で植物の特性を明確にすることが植物分類学の基本的な役割であることなどが伝えられました。次に、実際に竹林の中に入って植生を観察しました。竹が適度に間引きされている場所では、多様な植物が観察できます。しかし、放置された場所は地面の浅いところに地下茎が張り巡らされ、竹が密集し、植物の種類が少ない状態です。一通りの説明が終わると、受講生たちは、幼竹を折ったり、若い竹をノコギリで切ったりして間引きの作業を行いました。
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フィールドワークを始める前に、講師の徳岡先生から、植物の名前を知ることの意味が伝えられた
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静岡大学の敷地内で、照葉樹林の中に竹林が混在する状況を観察した。
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竹林が放置された状況。密集して生えた竹に枯れた竹が折り重なっている。
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幼竹を折って、間引きの作業を体験する。
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竹を地面から1mほどのところで切り、竹林全体の成長を抑える作業を行う。斜面にある竹林から切り倒した竹を運び出すことが、重労働であることを知る。
次に、切り出した竹を運び出し、静岡市環境共生課から提供していただいた竹破砕機で細かく砕いていきます。急な斜面で竹を引きずり下ろす作業、大きな音を出しながら竹を砕く作業など、竹林を管理することが重労働であることを体験しました。
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静岡市環境共生課の鈴木氏の指導の下、破砕機で処分するために竹を短く切り分ける。
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切り出した竹を破砕機に入れ、細かなチップにする。竹林に竹を破砕する大きな音が鳴り響く。
午後の講義Iは静岡市環境共生課の大友光夫氏から、静岡市の「放任竹林問題」を解説していただきました。この問題は全国共通の地域課題でもあり、多くは「放置竹林」と呼ばれています。静岡市では、人間の活動の中から生まれた問題であると捉え「放任竹林」と呼んでいます。平成の初め頃まで、静岡市では平地に隣接した山腹でミカン畑や茶畑が営まれていました。その静岡の特産品が生産されていた場所での耕作が行われなくなり、竹林が広がってしまったという点が静岡市特有の問題です。ミカンや茶は日当たりの良い傾斜地で栽培されていたため、市街地近くの急傾斜地に竹林が点在する現状が生まれました。また、農業従事者の高齢化が進み、竹の伐採や運び出しの担い手がいない状況に陥っています。竹を資源として活用する試みもありますが、十分な解決策には至っていないのが現状です。
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静岡市環境共生課の大友氏の講義。静岡市の「放任竹林」の現状と、課題解決に向けた活動の事例が紹介された。
講義IIは静岡大学生物科学科の徳岡徹先生による「竹林の生態系」についてです。まず、徳岡先生が専門とする植物系統分類学の立場から、竹の植物進化上の分類が解説されました。竹はイネ目イネ科に分類される単子葉植物で、植物進化に基づく系統樹の中では比較的進化の進んだ植物です。木か草かというと草(草本)に分類され、根の生え方や維管束の配置などがイネやネギといった他の単子葉植物と共通の特徴を持っていることが解説されました。
一方、土砂の堆積などで裸地となった場所は、やがて草が生え低木が育ち時間をかけてゆっくりと植生が変化していきます。自然界の植生の遷移は、長い時間をかけて安定した極相に達します。山火事などで植生の撹乱が起こると、その状態から二次遷移が始まります。人の手で農耕地となった場所も植生が撹乱された状態です。耕作が行われなくなり竹が生えてきてしまうと、竹は地下茎を張り巡らしながら竹林を広げていきます。竹は成長も速く陽を遮ってしまうため、竹林の中では生物の多様性も失われ、遷移が起こりにくくなることが説明されました。
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生物科学科の徳岡先生の講義。自然界の植生の遷移に対し、竹林がどのような影響を及ぼすかを考察する手掛かりとなる。
次に、午前中のフィールドワーク、午後の2つの講義を受けてグループワークを行いました。今回のグループワークの課題は「行政の視点に立った『放任竹林問題解決のための施策案づくり』」です。ここでのポイントは、施策の内容が広く市民の利益(公益)になるか、公費を用いて長期的に事業を行うこと(継続性)が妥当かなど、行政の視点を踏まえて議論することです。さらに施策として重要なことは、事業期間を示し、何をもって成果とし、どのような終わり方をするか、事業が終了した後に事業の効果を維持するためにどうするのかを明確にしていくことです。
2つの講義からは、市民の生活に基づく短期的な人間の営みと、長大な時間をかけて行われる遷移という自然の営みとの時間的な対立が読み取れました。さらに、農業、工業などの産業と環境、生活という社会全体の価値観や個人の価値観が対立しやすい構造など、解決に立ちはだかるいくつかの障壁が見えてきました。6つのグループに分かれた受講生たちは、活発に意見を交わす班、思いついたことをとにかく書き出してみる班、方向性が見出せず黙り込んでしまう班など、様々な姿が見られました。「竹林を管理することにどれだけのメリットがあるのだろうか」「『植生の遷移』により、自然がやがて解決してくれるのではないか」「『放任竹林』は果たして解決可能な課題なのだろうか」など、様々な意見が言葉と文字で表現されていきました。
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I班。課題解決に向けたアイディアやリスクを出し合って、方向性を検討した。
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II班。竹林を管理することが本当に必要なのか、お互いの考え方を率直にぶつけ合った。
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Ⅲ班。竹材の活用と、行政、竹林の所有者の間をつなぐ仕組みづくりを検討した。
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Ⅳ班。竹を資源として活用するために、社会の仕組みをどう整えるかを検討した。
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Ⅴ班。健全な竹林を維持する具体的な方策を立てるため、竹材の特徴を検討した。
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Ⅵ班。竹林を整備することにメリットがあるのか、整備しないことで生じるデメリットは何かを検討した。
FSS研究力養成コースを受講する高校生たちは「放任竹林問題」の活動を通して、研究や講義で培ったスキルと考え方を社会課題解決のために用いる体験をしながら、どのようなプロセスで研究成果や技術が社会実装に至るかを学びます。自然と人間社会の姿を俯瞰し課題を見つけ出す力、科学的な根拠を求めて情報を収集し精選する力、様々なアイディアの中から優先順位をつけて課題解決への道筋を考える力、いくつもの意見を統合して一つの提案にまとめる力などが求められます。このように研究力養成講座のワークショップでは、自ら問いを立て課題解決に挑む人材づくりを目指しています。
この後、各グループは、リモートでグループワークを続け、施策案の発表資料を作り、約1ヶ月後の5月26日(日)にプレゼンテーションを行います。