2024年5月26日(日) 研究力養成コース第5回として「放任竹林問題②」を行いました。

 2024年5月26日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は研究力養成コースの第5回講座としてワークショップ「放任竹林問題②」を行いました。

 前回、フィールドワークと講義の後、受講生たちは「放任竹林問題」を解決するための提案作りに取り掛かりました。各班で提案内容を議論する上で、大学から提示した課題は次のとおりです。
① 行政の視点に立った施策案として提案する。
② 行政の視点として、次の3つを盛り込む。
・公益性:広く市民の利益になるか。
・継続性:公費を用い長期的に事業を継続することが妥当か。
・終期:事業期間。事業が終わるとき、どうなっていたら良いか。事業が終わった後どうするか。
③ 班のメンバーは、科学技術などいくつかの分野の専門家になりきり、多様な視点から意見を出し、議論を進める。
④ 新しい価値を生み出す発想を求める。
対面でのグループワークで議論が足りなかった部分は、リモートでグループワークを継続し、プレゼンテーション資料を作成し本日に臨みました。

リモートでのグループワークで作成した提案をもとに、対面で意見交換を行い、プレゼンテーション資料を仕上げる。


放任竹林問題の複雑さに改めて気づき、なかなか提案内容がまとまらない班もあった。


 今回はまず、リモートで協議した施策案資料を元に、対面で議論を行いました。やはり、一番の難題は竹林にどのような価値や役割を見出すかでした。改めて意見を調整した上で、施策案の発表に移りました。発表にはFSSを運営する大学教職員の他、静岡市環境共生課の職員の方々、静岡大学理学部生物科学科の徳岡徹先生が参加しました。

<Ⅰ班>
 静岡市の放任竹林は急傾斜地に広がり、大規模な機械を導入しにくいという特徴を踏まえ、選択的除草剤を用いた竹林面積の削減を提案しました。イネ科である竹を特異的にはたらく除草剤を開発し、地下茎を通じて一帯の竹林を枯らし、その後自然の植生の遷移に任せるというものです。受講生からは、「選択的除草剤という発想が面白い」「竹が地下茎で繋がっていることをうまく使っている」などの意見がありました。

I班は、選択的除草剤の使用により、竹林面積を効率的に減らすことを提案した。


放任竹林は急斜面の傾斜地が多く、枯れた竹の輸送方法、処分方法も重要となる


<Ⅱ班>
 放任竹林問題では、伐採する場所への移動や切った竹の搬出を含め、人力に頼らざるを得ない側面があります。そこで、SNSを活用したボランティア制度の提案を行いました。さらにポイントカードなどを使い、ボランティアにとってのインセンティブと行政や土地所有者との交流を促進しようというものです。受講生からは、人的交流システムの構築により、事業の継続性を図ろうとしている点を評価した意見がありました。

II班は、人力に頼らざるを得ない竹林管理に対し、人集めの方法を提案した。


II班は、人力に頼らざるを得ない竹林管理に対し、人集めの方法を提案した。


<Ⅲ班>
 竹をそのまま使った建材や生活用品を商品化し、製造から廃棄に至るまで環境負荷の小さな循環を作るという提案をしました。放任竹林問題の解決に至るためには、その商品のブランド化を図り、竹林所有者、商品を製造・販売する企業、支援する行政の間に効果的な経済的循環を作ろうとするものです。受講生からは、「ブランド化によって竹に付加価値を持たせることは重要」「環境問題を踏まえている」という意見がありました。

Ⅲ班は、竹を原料とした建材や生活用品の商品化と、ブランド化を提案した。


竹のブランド化によって、竹林所有者、行政、企業の間で竹利用に関する経済的な循環を生み出したいと主張した。


<Ⅳ班>
 海外からの旅行者の日本での消費行動が、モノ消費からコト消費に移行していることを踏まえ、竹の伐採体験などを外国人向けの観光産業としようという提案です。地域おこしツアーなどの企画により、日本文化や日本の地域課題への取り組みに関心を持ってもらうということが狙いです。受講生からは「地域振興と行政の関わりが現実的に考えられていた」「事業の期間や目標が明確だった」などの意見がありました。

Ⅳ班は竹の伐採体験を外国人向けの観光産業として利用することを提案した。


たけのこ掘りなどの体験や日本文化に根付いた伝統工芸品づくりなどのコト消費に着目した。


<Ⅴ班>
 竹の柔軟性、耐水性、耐久性など材料としての特性を踏まえ、海洋ゴミ回収装置への利用を提案しました。根本的な解決の前に、竹林を活用した観光振興、子ども向け体験教室などを開催し収益を得た上で、その収益を環境問題と放任竹林問題の対策に使用していくという発想です。受講生からは、竹材を環境問題の解決に使うというアイディアと共に、そのシステムを維持するための産業振興の提案が面白いという意見がありました。

Ⅴ班は竹を用いた海洋ゴミ回収装置を提案した。


竹籠の柔軟性や耐水性を活用しした回収装置で、竹林問題と環境問題の解消の両立を狙いとした。


<Ⅵ班>
 具体的な提案の前に、放任竹林問題に付随する課題を様々な科学的視点から指摘しました。生態系の維持、建築材料やエネルギー資源としての需要などです。それらを踏まえて、市民が竹の活用を体験する場を作り、公益性と継続性を兼ね備えた対策としようという提案です。受講生からは、「複数の学問分野の視点から問題へのアプローチを考察している」「人の集まる場所で、地域振興を考えている」という意見がありました。

Ⅵ班は、公益性と継続性を兼ね備えた放任竹林の活用を提案した。


科学技術の様々な分野から竹林の価値を整理し、竹林を市民による地域活性化の場とすることで公益性と継続性を保つと訴えた。


 各班の発表に、静岡市環境共生課の皆さんにコメントを頂きました。放任されている竹林は多くが民有地で、それぞれに所有者がいます。民間の土地に対して、税金を使ってどこまで整備して良いのかいうことが、「放任竹林問題」解決の最も大きな障壁になります。さらに、伐採には手間と煩雑さが伴い、現時点では竹自体が大きな経済的価値を生むものではないため、竹林管理に対する積極的姿勢を生み出しにくいという現状があるということです。

静岡大学の徳岡先生から、農地利用と放任竹林問題の関係から、人間が自然に向かう態度について考える機会としたいとのお話があった。


最後に、前回フィールドワークの指導と講義をした、静岡大学理学部生物科学科の徳岡先生が活動全体の講評を行いました。「放任竹林ができたのは何故かを考えてみてほしい。自然の植生は長い時間をかけて遷移する。人間は、その遷移を一時的に断ち切って、そこを農地として活用した。その農地から多くの作物を獲得することで、私たち人間社会が支えられてきた。その農作物がいらなくなり放任されて竹林となり、自然界の遷移が妨げられる結果となっている。私たち人間に、この状況を元に戻す責任はないのだろうか。」

 年齢が15,6歳の高校生は、放任竹林になる前にその場所がどんな姿をしていたかを知りません。毎日目にする当たり前の景色だと思っていたものが、大きな社会課題であったことに気がつきました。しかも、その社会課題は、農業問題、高齢化社会、災害、土地所有などが複雑に絡み合っています。「放任竹林問題」は人間の営みと自然との関係を俯瞰することができるテーマでした。受講生にとっては、2回の講座で行政の立場に立った解決策を議論することで、行政の役割や行政は何ができて何ができないかを知る機会となりました。同時に、将来科学者や科学技術者となったとき、社会課題をどのように捉えていったら良いのかを深く考察することができました。
 振り返りの中で、受講生からは次のような感想が寄せられました。「この講座の前は、竹林など切り倒せばよいなどと安易に考えていたが、実際に竹に触れて切り倒してみたことで如何にそれが大変かわかった。また、今回の講義でもっともよかったのは、実際に市役所の方からお話を伺うことができた点にあったと思う。自分自身どうしても効果や効率性など理系的な視点にばかり目が行ってしまいがちだったので、民地にある竹林にどう対処するか、税金を使う価値があるのかなど、行政からの視点は非常に参考になった。」「自分で見て、考えて、発言・表現して、討論して、もう1度考え直して、もう1度討論して発表する。そのような流れはとても重要だし、社会に出ていく私達にとって必ずやっておかないといけなかったことだと思った。とても充実した1ヶ月間に出来たと思う。」