2024年8月25日(日) 基礎力養成コース 第3回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
2024年8月25日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第3回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを静岡大学浜松キャンパスで行いました。
この日は、静岡大学浜松キャンパス内にある「静岡大学高柳記念未来技術創造館」を特別に開館し、受付が始まる前の1時間ほど、受講生が館内で展示物の見学をしました。静岡大学工学部の前身である旧制浜松高等工業学校の研究者であった高柳健次郎氏は、1926年12月、世界で初めてテレビジョンの開発に成功しました。この記念館は高柳健次郎氏の偉業を偲び、テレビジョン発祥の地を記念するために設置されました。
館内には、高柳氏が「イ」の字の送像・受像に成功した装置や、その原理を説明した展示物があります。併せて、ブラウン管の白黒テレビ、初期のカラーテレビ、近年普及した液晶テレビなどが展示され、テレビジョン技術の歴史を見ることができます。高校生たちが生まれた頃には、液晶テレビによるデジタル放送が始まっていたため、ブラウン管テレビを見たことがない者がほとんどでした。どの家庭にも当たり前のようにあるテレビジョンが、どのようにして生まれ現在に至ったかを知る良い機会となりました。
静岡大学高柳記念未来技術創造館URL:https://wwp.shizuoka.ac.jp/tmh/
メインレクチャーは情報学部情報科学科の青木徹先生と加瀬裕貴先生による「人間の目を超えたイメージング、人が認識するVR,AR」です。今回の講義では人間の目に見えない「X線」を使って得られる情報を、VRやARにより人間が理解できる形で表現する情報処理方法が解説されました。
私たちが普段使っているスマートフォンのカメラにはCMOSイメージセンサが使われています。その感度、解像度、色再現性は人間の目にかなり近づき、目で見たままのものが記録できるようになりました。しかし、X線、紫外線、赤外線、電波など自然界には目に見えない電磁波が存在し、それぞれから特有の情報を得ることができます。センサが人間の目を越える性能を持つようになり、不可視光の領域の情報を取得可能になりましたが、それが物理的に正しい情報ではあるが人間の認識能力を超えているため、不可視光の情報を人間がどのように処理するかがこれまでの課題でした。
人間の目は、物体の表面の情報を、2次元の光のパターンとして受容しています。その表面の光の強度などの情報をもとに3次元的に認知していますが、物体内部の3次元情報は認識できません。しかしAIの出現で、人間が認識できながった物体内部の膨大な情報も人間を介さずに直接AIに入力し処理できるようになりました。またARやVRなどの多様な表現方法の技術も確立され、これらを組み合わせることで、取得した物理的に正しい情報を処理するシステムの構築が可能になり、人間の理解を補う技術を確立する道筋が出来てきました。
人間の立体的な体内の情報を知る方法として、X線CTが医療の分野で利用されています。人間の体を透過したX線は、その3次元空間の各点の画像情報を持っています。この各点の3次元情報を「ボクセルデータ」と言います。このボクセルデータを3次元画像として人間が理解できる形に投影する時、体内の器官表面の情報のみを処理し画像化する方法を、サーフェイスレンダリングと言います。一方で、X線の透過しやすさの情報を用いて内部構造を画像化する方法を、ボリュームレンダリングと言います。医師は、X線CTによって得られた人体の内部情報を2つの方法で処理し、投影された画像を用いて病気の診断や治療を行います。この2つの方法で得られた画像を、医師が認識しやすいように同時に立体的に表示できれば、病気の診断や治療に大きく貢献することになります。情報学部の青木先生、加瀬先生の研究は、これを実現するものでした。
青木先生の講義の後、情報学部の加瀬先生によって空間再現ディスプレイの実演が行われました。この装置ではサーフェイスレンダリングで得られた画像とボリュームレンダリングで得られた画像を複合現実(MR)の技術で同時に立体視できるばかりでなく、人間の手の動きに合わせて対象をあらゆる向きに回転させながら、体内の任意の場所の断面を見ることができます。受講生たちの一人一人がこの装置の操作を体験することができ、「すごい!」という歓声が上がりました。
サブレクチャーは、静岡大学名誉教授 FSS事務局コーディネーターの瓜谷眞裕先生による「研究提案書の作成法」を行いました。
現在、基礎力養成コース(第1段階)には約60名の高校生が在籍していますが、この中から40名が選抜され研究力養成コース(第2段階)に進みます。その時に、選抜審査の資料となるのが研究提案書です。審査を経て研究力養成コースに進むことを認められた受講生は、研究提案書の内容をもとに、どの研究者に指導を受けるかが決まります。研究提案書を作成することは、FSSでの研究活動の方向性を決める大切な作業です。
瓜谷先生の講義では、まず「研究とは何か?」「研究は何のためにするのか?」という研究者としての心構えについてのお話がありました。次に具体的な研究提案書の作成法として、研究提案書に記述する各項目の書き方、研究課題の見つけ方、研究発信の場とそれぞれの特徴が伝えられました。最後に、今後の研究活動を支える研究ノートの付け方、研究ノートの機能が説明されました。受講生には、入校時に「研究成果の証明に役立つ研究記録ノート」とタイトルがついた研究ノートが配布されており、このノートの重要性が改めて認識できました。
研究提案書の提出締め切りは9月30日です。受講生たちは、これから約1ヶ月間、学校生活の傍で研究提案書の作成に取り組みます。そして10月には選抜審査を経て研究力養成コースのメンバーが決まります。その後、研究者とのマッチングを行い、11月初旬を目処にFSSでの研究活動が始まる予定です。