2024年12月15日(日) 基礎力養成コース 第10回 2023年度入校生研究成果発表会、交流会、サブレクチャーを行いました。
2024年12月15日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第10回目講座として2023年度入校生研究成果発表会、交流会およびサブレクチャーを行いました。
1.2023年度入校生研究成果発表会
2023年度7月に入校し、現在研究力発展コース(第3段階)に在籍する受講生の代表3名が、1年後輩である2024年度入校生の前で研究発表を行いました。
(発表内容)
発表内容は、11月9日(土)に行った研究力発展コース受講生の中間報告会で報告された内容です。
(1) 静岡県立科学技術高等学校2年 池田梗さん
研究テーマ「昆虫のタケノコへの誘引」
タケノコに誘引される昆虫について、その種類、数などを、季節やタケノコの処理方法を変えて比較し、誘引されやすい昆虫の特定と傾向を解析した。
(2) 静岡県立清水東高等学校2年 大迫悠暉さん
研究テーマ「疑似濃淡電池における反応機構の解明」
金属電極と、その金属とは異なる元素のイオンを含む電解質溶液からなる「疑似濃淡電池」において、特に正極での反応機構の解明を試みた。
(3) 静岡県立静岡高等学校2年 佐藤蓮太郎さん
研究テーマ「可視光通信に革命を起こせ!」
通常、通信には使われない可視光線に情報を載せ、電磁波の使用が制限されている場所でのネットワーク構築に関する問題解決を試みた。
発表を聞いた基礎力養成コースの受講生のうち40名は、研究力養成コース(第2段階)に進みます。第2段階に進むほとんどの受講生は、研究指導者とのマッチングも終わり、いよいよ本格的な研究にとりかかるところです。基礎力養成コースの受講生は1年後の自分たちの姿を思い浮かべながら、自分が提案した研究に不足している観点や分野が異なる研究の新たな視点を知ることができました。これから研究を始める高校生にとって、発表内容には難しい概念も含まれていたのですが、1年先輩の受講生たちは基本的な用語などの質問に対しても丁寧に解説していました。
2.交流会
2023年度入校生研究成果発表会に引き続き、基礎力養成コースの受講生を7班に分けグループワークによる交流会を行いました。各班には、研究力発展コースの受講生7名(内1名は継続コースに在籍)がTAとして入り、後輩たちに助言をしました。
グループワークでは、2つの話題を提示しました。
① FSSの研究力発展コースで取り組んでいる研究に関する質問
② 将来やりたいと思っていることと、FSSでの活動のつながりについて
各班では基礎力コース受講生の司会でグループワークが進行し、後輩たちの質問に先輩が答えながら話題を掘り下げていきました。
話し合いの内容について、TAを務めた研究力養成コース受講生からは個別のメールで報告を受けました。報告によると、「学校生活とFSSの活動の両立に対する不安」「FSSで予定している研究テーマは、自分が将来本当にやりたいこととは別のテーマである」「大学受験の際、メリットはあるのか」などが話題に上がったそうです。それらに対し、TAからは「FSSの活動に割く時間の量よりも質が重要」「FSSでは、明らかにしたいことに対するアプローチの仕方や多角的な物事の捉え方を学んでほしい」「受賞歴のような目に見える結果よりも、FSSで体験できる学びを大切にし、研究に対する自分なりの向き合い方を身に着けるべきである」など、適切な助言が後輩たちに対してなされました。
ある基礎力コースの受講生からの振り返りレポートには、次のようなFSSに対する感想が書かれていました。「FSSで行った活動は、とても刺激的で面白かった。特に自分の成長に繋がったこととして思い浮かぶのが、毎回の講義後に行われる質疑応答の時間だ。質疑では、自分では全く思いつかなかった意見を述べる受講生が多くおり、新たな視点を知ることができたと同時に同世代がこんなに考えを巡らせることができるのかととても驚き、自分の原動力となった。」
3.サブレクチャー
サブレクチャーは、「科学コミュニケーションへの招待 −科学者と社会を繋ぐスキル−」というタイトルで、FSS事務局サブコーディネーターの谷俊雄先生が担当しました。
谷先生は前職、静岡科学館の職員時代、静岡市の静岡型水素タウン促進事業の一環で同市環境局より委託を受け、学校向けの教材開発を行いました。今回のサブレクチャーでは、この時に制作された再生可能エネルギーと水素エネルギーの関係を学習することができる教材の演示を見た後に、水素エネルギーの利用の実現性をグループで議論しました。
「水素エネルギーの利用」をテーマにしたグループ討論では、講師から次の3つの話題が提示されました。
話題1:水素を化石燃料の代替エネルギー資源として利用するためには、科学技術を用いて何を解決する必要があるでしょうか?
話題2:化石燃料の代替として水素の利用が行政によって提唱されはじめてから約7年が経ちました。エネルギー資源としての水素利用について、課題を考えてください。
話題3:化石燃料の枯渇、二酸化炭素排出の抑制を踏まえたエネルギー問題に社会が対応する上で、どのような学問上の研究テーマが見出せるでしょうか?
これら3つの話題を、それぞれに20分の制限時間を設け、自分の考えの書き出し、意見交換、まとめの文章作成という手順を繰り返していきました。先の交流会と同じグループでの活動ですが、科学コミュニケーションのスキルを学ぶためのグループ討論とするため、ここでは進行役と発言者に明確な役割を与えました。進行役は、発言内容の確認や質問を行い、意見を引き出す役割に専念しました。発言者は、他の発言者を否定しないように心がけ、自分独自の意見の表明や他の人の意見への付け足しを行いました。このグループワークにおける目標の一つは、個人が予め持つ情報と他者からもたらされる情報を比較吟味することでした。もう一つの目標は、参加者にとって意見を出しやすい環境づくりを行うファシリテーター(進行役)という役割を体験し、議論を活性化するスキルを学ぶことでした。
後日、振り返りレポートでファシリテーターに必要な資質について尋ねると、受講生たちは、受容的な態度、双方向コミュニケーションを重視する態度、傾聴力、柔軟性、調整力、リーダーシップ、問いを構築する能力、第3者の視点から物事を見ることができる能力などを挙げていました。受講生にファシリテーターの役割が理解され、多様な視点を交換し合う討論が成立していたことがわかりました。
そもそも、科学者が研究成果を誰かにわかりやすく伝えるときに、科学コミュニケーションのスキルはとても大事です。それに加えて、専門家と非専門家が信頼関係を築いたり、科学を社会に実装したりする場面で必要なスキルであることも、受講生たちは気づくことができました。それが技術の進展や新たな視点での発見を生む機会となると述べる受講生もいました。
今回のサブレクチャーでは、このような「エネルギー問題」というなかなか結論が出ないテーマに対し、多様な意見が交わされる場をコントロールしながら、議論を活性化させる手法を学ぶことができました。将来FSSの受講生は、社会の様々な場面で、科学者の立場から情報提供をしたり、課題解決方法を提示したりする状況に遭遇すると考えられます。その時にどのような態度で議論に臨めば良いか、理解を深めることができました。