2025年4月20日(日) 研究力養成コース第4回として「放任竹林問題①」を行いました。

 2025年4月20日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は研究力養成コースの第4回講座として社会課題解決ワークショップ「放任竹林問題①」を行いました。

 現在、日本各地で竹林が管理されずに放棄され、高密度に竹が生えた竹林が拡大するという状況が発生しています。静岡市でもその拡大は著しく、市街地に近接した急傾斜地が竹林に覆われている光景がよく見られます。今回は、この問題に取り組む静岡市環境共生課と連携し、FSSで身につけた視点で地域の課題を眺め、社会課題の解決のために研究成果や技術を社会実装するプロセスを学んでいきます。そこで、ワークショップの第1回目としてフィールドワークを行い放任竹林の実態を観察し、原因を知り、グループワークで課題を洗い出す作業を行いました。

 午前中は、最初に静岡大学生物科学科 徳岡徹氏が講師となり、静岡大学の敷地内にある竹林で、竹林内の植生や植物としての竹の特徴を観察しました。大学の敷地内は森林も多く、多様な植物が観察できます。竹が間引きされた一帯に入って植生を観察すると、高木に成長したクスノキの下では竹林の拡大が抑制され、多くの背の低い陰樹が観察できました。一方、管理されていない竹林では竹が密集し、地面の浅いところに地下茎が張り巡らされ、植物の種類は多くありません。

静岡大学の敷地内では、管理されている竹林と管理されていない竹林の違いを観察することができる。


照葉樹林の中に竹が混在する場所では、樹木が成長することで、竹林の拡大が抑えられている様子が観察できた。


竹林が放置された状況。密集して生えた竹に枯れた竹が折り重なっている。

 徳岡氏の解説の後、受講生たちは竹を間引きするために切る作業、切った竹の枝を掃う作業、搬出しやすい長さに切る作業を体験しました。急傾斜地での作業は効率も悪く、1時間程度の活動の中では、数本の竹を運び出すことが精一杯でした。

間引きされた竹は、枝を掃って土に接触させると腐植が進む。


竹を搬出可能な長さに切る作業。斜面にある竹林から切り倒した竹を運び出すことが、重労働であることを知る。

 次に、切り出した竹を運び出し、静岡市環境共生課から提供していただいた竹破砕機で細かく砕いていきます。急な斜面で竹を引きずり下ろす作業、破砕機が大きな音を出しながら竹を砕く作業など、竹林を管理することは、予想以上に労力を要することが実感できました。

静岡市環境共生課が保有する竹の粉砕機。
竹林整備のボランティア団体などに貸し出される。


切り出した竹を破砕機に入れ、細かなチップにする。竹チップを手で触りながら、何かに使えないかと話し合っている。

 午後の講義Iは静岡市環境共生課 鈴木勇海氏から、静岡市の「放任竹林問題」を解説していただきました。この問題は全国共通の地域課題でもあり、多く地域では「放置竹林」と呼ばれています。平成の初め頃まで、静岡市では平地に隣接した山腹でミカン畑や茶畑が営まれていました。その静岡の特産品が生産されていた場所での耕作が行われなくなり、竹林が広がってしまったという点が静岡市特有の問題です。ミカンや茶は日当たりの良い傾斜地で栽培されていたため、市街地近くの急傾斜地に竹林が点在する現状が生まれました。また、農業従事者の高齢化が進み、竹の伐採や運び出しの担い手がいない状況に陥っています。竹を資源として活用する試みもありますが、十分な解決策には至っていないのが現状です。

静岡市環境共生課 鈴木氏の講義。静岡市の「放任竹林」の現状と、課題解決に向けた活動の事例が紹介された。


講義後、受講生から質問を受ける鈴木氏。

 講義IIは静岡大学生物科学科 徳岡徹氏による「竹林の生態系」です。まず、徳岡氏が専門とする植物系統分類学の立場から、竹の植物進化上の分類が解説されました。竹はイネ目イネ科に分類される単子葉植物で、植物進化に基づく系統樹の中では比較的上位にある植物です。木か草かというと草(草本)で、根の生え方や維管束の配置などがイネやネギといった他の単子葉植物と共通の特徴を持っています。一方、土砂の堆積などで裸地となった場所は、やがて草が生え低木が育ち時間をかけてゆっくりと植生が変化していきます。自然界の植生の遷移は、長い時間をかけて安定した極相に達します。山火事などで植生の撹乱が起こると、その状態から二次遷移が始まります。人の手で農耕地となった場所も植生が撹乱された状態です。耕作が行われなくなり竹が生えてきてしまうと、竹は地下茎を張り巡らしながら竹林を広げていきます。成長も速く陽を遮ってしまうため、生物の多様性も失われ、竹林の中では遷移が起こりにくくなっています。

生物科学科 徳岡氏の講義。自然界の植生の遷移に対し、竹林がどのような影響を及ぼすかを考察する手掛かりとなる。

 次に、フィールドワークでの観察と体験、午後の講義で得た情報を元に、グループワークを行いました。今回のグループワークの課題は「行政の視点に立った『放任竹林問題解決のための施策案づくり』」です。ここでのポイントは、施策の内容が広く市民の利益(公益)になるか、公費を用いて長期的に事業を行うこと(継続性)が妥当かなど、行政の視点を踏まえて議論することです。さらに行政の行う施策として重要なことは、一定の事業期間を示すことです。事業が終了したときに何をもって成果とするのか、事業終了後、どのような仕組みで効果を維持するのかを明確にしておく必要があります。

 6つのグループに分かれた受講生たちは、グループで1つ課題を設定し、次回その解決策を「施策案」として発表します。まずは、フィールドワークや講義で得た情報から、放任竹林問題の背景だと考えられることを書き出していきました。土地所有者の高齢化、竹の需要低下、竹製品の付加価値の低さ、竹という植物の特徴と管理の難しさなど、解決を困難にしている背景について多角的に問題点が洗い出されました。その中から、これまでFSSで学んできたことを参考にしながら、解決できそうな課題を絞り込んでいく作業を行いました。最後に、施策案の方向性を文章化して本日のグループワークは終了です。

グループワークを通して、放任竹林問題が発生した背景を考察した。


フィールドワークと講義から得た情報を元に、解決すべき課題を絞り込む作業を行った。


今回の議論を元に、行政の立場に立った施策案を作成するという課題が提示された。

 この後、各グループはリモートでグループワークを続け、施策案を反映した「事業企画書」を作成します。この中には、対象地域、成果目標、運営体制、予算など、さらに具体的な情報を盛り込む必要があります。受講生たちは、他市町村の事例や応用できる科学技術などを調査しながら、案をまとめていきます。

5月25日(日)実施予定の「放任竹林問題②」ではプレゼンテーションを行い、静岡市の職員の皆さん、大学教員を交えて、各班の提案について討論を行う予定です。本学FSSでは「6つのつなげる力」として、「研究を社会の課題につなげる力」「課題解決を目指した討論力」を掲げています。研究力養成コースで2回にわたって行う「放任竹林問題」の講座では、解決困難な状況にある地域課題を取り上げ、その具体的な実情を踏まえた上で、行政の実際の担当者から助言をいただきながら施策案の作成という体験をします。高校生たちの豊かで柔らかな発想から、ユニークな提案が飛び出してくることを期待しています。