2025年9月15日(月・祝) 研究力発展コース 第3回目アントレプレナーシップ講座を浜松ホトニクス中央研究所で実施しました。

 静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS) 研究力発展コース(第3段階)では、2025年9月15日(月・祝)に受講生を対象に第3回目のアントレプレナーシップ講座を実施しました。当日は浜松ホトニクス株式会社中央研究所(浜松市浜名区)を会場として、浜松ホトニクス社が支援する起業家や光産業創成大学院大学の経済学者のお話を直接お聞きしながら、「起業家の行動様式と意思決定」について考察を深めました。

 今回の講座は以下のようなスケジュールで進行しました。
 1.浜松ホトニクス株式会社および光産業創成大学院大学の紹介(10分)
 2.浜松ホトニクス株式会社研究者との交流会(60分)
 3.株式会社浜松ホトアグリ 山田万祐子 社長 講義
   およびアントレプレナーシップをテーマとしたグループワーク(80分)
 4.光産業創成大学院大学 増田靖 教授(経済学) 講義
   「起業家の行動様式と意思決定『エフェクチュエーション』」
   およびグループワーク「起業家の行動分析」および発表・ディスカッション・
   講評(65分)

浜松ホトニクス社の東城氏が、浜松ホトニクス社と光産業創成大学院大学の
紹介を行った。

1.浜松ホトニクス株式会社および光産業創成大学院大学の紹介(10分)
 最初に、浜松ホトニクス株式会社 中央研究所連携推進グループの東城司氏より、浜松ホトニクス株式会社および光産業創成大学院大学を紹介して頂きました。浜松ホトニクス株式会社は、1953年堀内平八郎氏が創業しました。堀内氏は、世界で初めてテレビジョンの開発に成功した旧制浜松高等工業学校(現 静岡大学工学部)の高柳健次郎氏の門下生でもあり、静岡大学とは縁の深い企業です。現在、同社は社会・環境価値創造型企業として、医療、エネルギー、基礎科学などの分野で活用される多くの製品を生み出しています。
 一方、光産業創成大学院大学は「光を用いて未知未踏の新しい産業を創成しうる人材の養成」を建学の精神として2005年4月に開学しました。同大学では、光科学技術をビジネス化できる起業人・企業人を育成すると同時に、世界に必要な科学技術を開拓するための研究や教育が行われています。

2.浜松ホトニクス株式会社研究者との交流会(60分)
 浜松ホトニクス株式会社の紹介の後、同社の中央研究所で製品開発に携わっている3名の研究者(女性2名、男性1名)の皆さんとの交流が行なわれました。最初に研究者の代表の方から、浜松ホトニクス株式会社の使命として光の未知領域を追究し、それを技術に変換し、新しい価値を見出していくことが、この研究所の目標であるというお話がありました。続けて、各研究者の皆さんから、自分が扱う研究領域の紹介や研究者になるまでの経緯が紹介されました。また、そればかりではなく、育児との兼ね合いなど、プライベートな時間との間で如何にワークライフバランスをとるかなど、社会人としての日常にも触れて頂きました。

浜松ホトニクス株式会社の研究者の皆さんとの交流。3人の研究者の方々が取り組む研究が紹介された。

 次に、「哲学対話」の時間が設けられました。研究者から「あなたにとって『研究』とは?」という問いが投げかけられ、17名の高校生と3名の研究者が、それぞれ自分の研究観を語る時間となりました。普段高校生たちは、それぞれ異なる研究指導者の下で、別々のテーマの研究に取り組んでいます。研究発表会で研究内容の情報交換をすることはあっても、自分にとって研究とは何かを語り合う機会はありませんでした。また、研究者の方たちからも、会社の仕事としての研究にどう向き合っているのかをお聞きすることができました。和やかな中にも、これまで高校生たちがFSSの研究活動の中で実感したことを反芻し、FSSで学ぶことの意義が深く刻まれる時間となりました。

受講生全員が、自分にとって研究とは何かを語った。


浜松ホトニクス株式会社の研究者の皆さんとの記念写真

3.株式会社浜松ホトアグリ 山田万祐子社長の講義、およびアントレプレナーシップ
  をテーマとしたグループワーク(80分)
 山田万祐子氏が2005年に起業した株式会社浜松ホトアグリは、光技術を応用してベビーリーフ等の生産を行う企業です。山田氏が大学の農学部を卒業後、浜松ホトニクス社に就職し、現在に至るまでに遭遇した3つのエピソードを題材にして、受講生たちがグループワークを行いました。

株式会社浜松ホトアグリ創業の経緯について、山田社長からお話を聞いた。

 (エピソード1)就職後、学生時代から目指していた海外での農業支援に参加しようと準備をする中で体調不良になり、海外での活動を断念すべきか決断を迫られた。
 (エピソード2)在職中、光産業創成大学院大学に入学後、株式会社浜松ホトアグリを起業した。光技術を導入し、高付加価値の製品を作ろうとしたが害虫による大きな被害に見舞われた。
 (エピソード3)光による害虫駆除の技術を確立することができた。製品化に成功し、農業以外の分野での用途も拡大したが、製品開発のための負債を抱えることにもなった。

株式会社浜松ホトアグリの起業にまつわり、岐路に立たされた時の判断について、受講生自身の考えを書き出してみた。

 山田氏が遭遇したそれぞれの岐路に対して、受講生たちは、自分だったらどうするかを自由に考えホワイトボードシートに書き出していきました。
 エピソード1に対しては、体調が回復するまでの時間を準備期間とする、別の角度から農業支援に貢献する活動に取り組んでみるなどの意見が出ました。エピソード2に対しては、光と農業生産の研究開発によって得られた知見や技術が、他の分野にも転用できるのではないかという意見が各班から出ました。エピソード3についても、開発した技術を他社に売却して資金を得る、他社の傘下に入るなど、会社経営の戦略に関わる意見が聞かれました。高校生たちは一連のアントレプレナーシップ講座で初めて「アントレプレナーシップ」という概念に触れたにも関わらず、彼らが出したアイディアは、アントレプレナーシップの重要な考え方を含むものでした。

 株式会社浜松ホトアグリは、その後経営も安定し、新たな製品開発にも取り組んでいます。さらに、障がいのある方たちの雇用も進め、車いす利用者が農作業をすることができるシステムを開発したり、ハンディキャップが特性として生かされるような作業を生み出したりと、社会課題に取り組む企業として工夫を重ねています。

それぞれの班で、自分たちの考えを書き出していく。


会社経営でトラブルに遭遇した時の対応について、受講生自身の考え方と山田社長の考え方を突き合わせてみた。

4.光産業創成大学院大学 増田靖教授(経済学)講義
  「起業家の行動様式と意思決定『エフェクチュエーション』」
  およびグループワーク「起業家の行動分析」および発表・ディスカッション・講評(65分)
 山田氏による株式会社浜松ホトアグリ起業のお話と、その中で遭遇したエピソードを踏まえて、光産業創成大学院大学 増田靖教授による「起業家の行動様式と意思決定『エフェクチュエーション』」の講義とグループワークに移りました。ここでは、3回にわたるFSSの「アントレプレナーシップ講座」のまとめとしての理論を学びました。

光産業創成大学院大学の増田教授による「起業家の行動様式と意思決定」の講義。

 起業家の行動様式と意思決定の理論として、2008年にアントレプレナーシップの研究者Sarasvathy氏によって提唱された「エフェクチュエーション」が増田教授から紹介されました。次に、このエフェクチュエーションの理論に基づく5つの行動原則を、先ほどの山田氏の起業にまつわる行動分析と照らし合わせていきました。

<エフェクチュエーションの5つの行動原則>
①手持ちの駒の原則:既存の手段を用いて新しいものを作り出す行動
②許容可能な損失の原則:許容できる損失を基準とした意思決定
③クレージーキルトの法則:綿密な経過を立てず、あらゆる関与者と交渉していく行動
④レモネードの原則:不測の事態を逆手にとって対応する行動
⑤飛行中のパイロットの原則:様々な人々に働きかけ、機会創造を行う行動

エフェクチュエーションの5つの行動原則と山田社長の起業にまつわるエピソードを関連づけた。


グループワークでは、増田先生と受講生が意見を交わした。


各班の発表内容に基づき、講評と表彰が行なわれた。

 グループワークや発表の内容には、それぞれの班の特色が見られ、その特色に応じて増田教授と山田氏から各班に表彰が行なわれました。最後の講評では、お二人からFSS受講生に向けて、次のようなメッセージが伝えられました。
山田氏「誰のどんな困りごとに関わるかが大事。社会課題を見つける目を養ってほしい。」
増田教授「社会で起こっていることは正解が無く、試行錯誤の連続である。もし起業家を目指すのなら、世のため人のためになるものを見つけてほしい。」

増田教授、山田社長とFSS発展コースの受講生の記念写真。

 浜松ホトニクス株式会社でのアントレプレナーシップ講座を通して、受講生たちからは、次のような感想が報告されました。
【研究者との交流会】
 研究者の方々との関わりを通じて、企業の中でも多くの研究者が活躍していることを知り、大学で行う研究とはまた異なる興味深さを感じることができた。企業と大学では、研究の内容も目的にも違いは確かにあるが、研究者として探究心を持ち、課題に真摯に向き合う姿勢は本質的に同じであると感じることができた。(石塚さん)
【グループワーク】
 印象に残ったのは、起業家の行動様式や意思決定の在り方だ。事業を進めるうえで思い通りにいかないことや予想外の困難は必ず起きる。そのとき重要なのは、ただ理想を追い続けるのではなく、現実に起きてしまった事実を直視し、そこからどう動くかを決める姿勢だと感じた。困難に正面から立ち向かう強さと同時に、必要であればシフトチェンジして新しい道を探る柔軟さを持つことが起業家の大きな資質だと学んだ。(石田さん)
        
<今回の講座に協力していただいた方々のご紹介>
光産業創成大学院大学 
  https://www.gpi.ac.jp/
光産業創成大学院大学 教授(経済学)  増田 靖 氏
  https://www.gpi.ac.jp/research/engineering/professor-01/
株式会社浜松ホトアグリ 代表取締役  山田 万祐子 氏
  http://www.photo-agri.com/
浜松ホトニクス株式会社中央研究所
  https://www.hamamatsu.com/jp/ja.html