2025年11月16日(日) 基礎力養成コース 第9回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
2025年11月16日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第9回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
メインレクチャーは理学部化学科 小林健二先生による「分子のかたちと集合:分子から超分子へ」です。小林先生は、有機化学の分野の中でも、分子の自己集合(自己組織化)とその機能を調べる超分子化学の研究をしています。
化学とは、新しい物質を作り出したり、未知の物質の性質や機能を探求したりする学問分野です。化学という学問分野で行われた分子の立体構造や結合に関する研究は、私たちの生活に欠かせない医薬品やプラスチック、エネルギー材料の開発に応用され、化学は生物の体内で起こる複雑な生命現象の解明にも不可欠なものとなっています。日本でも1981年福井謙一氏のノーベル化学賞受賞など、化学の分野で革新的な発見や発明を行い世界的に評価される科学者を数多く輩出してきました。

メインレクチャー講師の小林先生

化学という分野の研究対象と、化学を研究することの意義が述べられた。
その医薬品やプラスチックの開発、生命現象の解明に特に大きく関わるのが有機化学です。そして有機化合物を構成する複雑な形の分子の構造を理解するためには、電子軌道と化学結合の知識が欠かせません。原子内の電子軌道や分子内の結合の様子を物理や数学を用いて解き明かすことで、分子が持つ3次元立体構造の原因を知ることができます。

電子軌道の形と結合のしかたが分子の形を決める。
この有機化合物の代表的な立体構造の一つが正四面体です。正四面体構造は、炭素原子のL殻にある1つのs軌道と3つのp軌道によって作られるsp3混成軌道がもとになり、炭素原子の4つの電子が隣の原子とσ(シグマ)結合で結合したときにつくられる形です。一方、sp2混成軌道の状態にある隣り合った2つの炭素原子間で、σ結合に対して垂直の方向に回っている電子を使うとπ(パイ)結合ができます。このπ結合でできた有機分子は、平面的な形となります。これらの結合が組み合わさって複雑な有機分子が形成され、その結果生じた立体構造によって一つ一つの分子の性質が決まります。

メタンが正四面体構造になる理由が解説された。
ところで、従来の有機化学では一つ一つの分子の構造や性質が研究対象となり、合成方法や反応機構が解明されてきました。一方、小林先生の研究室では、分子が複数あるいは集団として振舞ったときに発現する性質で、個々の分子では見られない新たな性質や機能に注目して研究が進められています。このような分子の集合組織化を制御することを目的とした学問を超分子化学と言います。現在、小林先生の研究室では、多孔質結晶性分子集合体(ゼオライト)を用いた物質分離技術や固体触媒、分子集合カプセル、分子マシーンなどの研究が行われています。
サブレクチャーは教育学部 室伏春樹先生によるワークショップ「プレゼンテーションの要点」を行いました。
現在、小学校、中学校、高校の教育課程では「総合的な学習の時間」や「総合的な探求の時間」で探究の成果をスライドにまとめ、口頭発表する機会が多くなりました。また、FSSの中でも研究力養成コース(第2段階)以降に進むと、研究発表会や科学研究のコンクールなどで口頭発表機会が増え、見やすいスライドづくりは必須のスキルとなります。そこで今回のサブレクチャーでは、スライドを作る上での基本的な留意点を学んだ後、プレゼンテーション資料を作成することで、スライドづくりのスキルを高めることをねらいとしました。

サブレクチャー講師の室伏先生

静岡大学教育学部の紹介と教育学で何を研究するかが説明された。
プレゼンテーション資料を作る上での要点とは、次のようなものです。
1.発表の原則を決める
(1) 配色
(2) フォント
(3) 画面レイアウト
2.構成を決める
(1) アウトライン
(2) スライドの情報量
3.伝達手段を工夫する
(1) 袋文字
(2) 図式化
パソコンで作成された文章を読む時、数字の1と英小文字のl(エル)のように見分けにくい場合があります。またカタカナのエと漢字の工(こう)も見分けにくい文字の例です。このような見分けにくい文字を見分けられるようにフォントを選ぶことも、人に見せるスライド資料では大切な要素です。また、これまでの受講生の作った研究発表資料にも、1枚のスライド内の文字数が多すぎて、そのスライドで何が言いたいのか短時間で聞き手に伝わらないケースも見られました。ここではパラグラフライティングで学んだように、聞き手のメンタルモデルの形成を意識してスライドの構成を考えるというスキルも大事になります。
受講生たちは、各自パソコンを持参し、Web上に公開されているスライド作成アプリを使いながら、配色を選んだり、フォントを選んだりする作業を自分の手で操作してみました。スライド作成アプリには、数多くの機能が埋め込まれており、その機能に慣れず戸惑っている受講生に対しては、室伏先生が巡回し、アドバイスをしていきました。

受講生の質問に答える室伏先生。
以上を学んだ後、受講生たちは自宅で課題に取り組みます。課題は、7月の応募時「志願書」に書いた「最近の科学技術に関する話題で興味を引いたもの」を5ページ以内のプレゼンテーション資料にまとめるというものです。課題はオンラインで提出し、アウトラインが整えられているか、視認性や可読性が高められているかなどを評価していきます。
将来、受講生たちが研究した内容や開発した製品などを広く発信する場で、今回学んだスキルが活用されることを期待しています。