2026年1月25日(日) 研究力養成コース第1回として講演「科学者・技術者のキャリアパス」とワークショップ「海外大学生との交流」を行いました。

 2026年1月25日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は研究力養成コースの第1回目講座として講演「科学者・技術者のキャリアパス」とワークショップ「海外大学生との交流」を行いました。
 
 前半は、倉持孝博氏(ヴェオリアジャパン株式会社 上級人事ビジネスパートナー)を講師としてお招きし、「科学者・技術者のキャリアパス」のタイトルでキャリアパス構築の考え方についての講演会を実施しました。キャリアとは、人の働くことに関わる経歴と生き方を表す言葉です。一方、キャリアパスとは仕事に至る道筋を示す言葉で、ある職務に就く時に必要なスキルや経験などの要素を含みます。この講演では、仕事に対する興味・意欲、仕事の機会、仕事の能力をどのようにリンクさせキャリアパスを構築するかというお話をしていただきました。

講師のヴェオリアジャパン株式会社 倉持氏

 昭和の高度成長期から2000年ごろまで、会社に勤める人たちの多くは終身雇用で年功序列の雇用制度の中で働いていました。2000年以降になると、グローバル化やデフレが進み、次第にジョブ型雇用が導入され、人々の働き方が多様になってきました。現在では、ジョブ型雇用がさらに一般化し、しかも人間の仕事がAIに取って代わられようとしています。それに伴って働く人の意識は、個人を重視し、転職や起業という選択肢も視野に入れたものに変わってきました。このように大きく変化する社会に踏み出す高校生たちにとって、継続的に必要なスキルを身につけながら自己変革しようとする意識を持って社会に出ることが大事な時代となっています。

 キャリアの構成要素は3つあります。一つ目が、自己理解や仕事への理解に繋がる「興味・意志(Interest)」です。二つ目が、人生設計や職業観から導き出される「就業機会(Opportunity)」です。3つ目は、ビジネススキルやライフスキルという「能力(Capability)」です。この3つの構成要素が結びつきトライアングルを構成している状態が、キャリアが成立している状態です。さらに、種類の違う多様な3要素を「行動(Action)」によって獲得しながら、さまざまなトライアングルを繋ぎ合わせていくと、自らのキャリアパスを拡げていくことができます。

キャリアの3つの構成要素

 獲得した「興味・意志(Interest)」「就業機会(Opportunity)」「能力(Capability)」の3要素と「行動(Action)」の掛け算の結果がより大きくなっていくと、キャリア実現の確率が高まります。しかし、現代の日本で社外学習や自己啓発をしていない人の割合は50%を超え、世界的に見ても高い水準です。この状態は、社内社外で新しい仕事に就きにくく、キャリアが止まるリスクが高い状態といえます。知っている仕事には就けますが、知らない仕事にはつけません。ジョブ型雇用の進む現代は、職場の先輩や上司をキャリアのメンターと考え、持続的な行動力と熱意を持ち、生涯にわたって「リスキリング(Reskilling)」が必要な時代であることが受講生たちに伝えられました。

 講演の後、受講生からはたくさんの質問が出されました。「キャリアパスを拡げようとする中で、行き詰まりを感じた時にはどうしたらよいか」「機会の増やし方というのはあるのか」「自分の興味がある分野は文系の分野なのだが、得意なのは理系の分野といったときに、それは結びつくものなのか」「自分がやりたいことと、大学で学ぶことが合わない場合にはどうしたら良いのか」などでした。

将来に向けて、どのように行動したらよいかを質問する受講生

 また、後日提出された振り返りレポートには、次のような感想が書かれていました。「キャリアパスを構築するにあたって、今の自分に足りないことは自己理解であると感じた。」「変化の大きい社会の中で、学び続ける姿勢を持つことで自分自身の可能性を広げるとともに、社会にも新たな価値を提供できる人材になりたいと考えた。」「自分が予想しないようなことが人生の転機になったりする。色んなことに手を伸ばして触れてみて、知識や経験をつけておくことも大切だと感じた。」「将来を固定的に考えるのではなく、学びや挑戦を通じて選択肢を増やす姿勢が大切だと感じた。」高校生にとって大学進学という大きな進路選択が目の前に迫る中、自己啓発と行動力がキャリアパス構築の大きなカギであることが心に刻まれました。

理系、文系という進路のとらえ方について質問する受講生

 後半のワークショップ「海外大学生との交流」では、3月7日にシンガポール国立大学の学生の皆さんとリモートで行う交流会の準備を行いました。その交流会では、「『地域』の困りごとを科学的に解決」というテーマについて英語と日本語で発表し、日本の高校生とアジアの大学生の間で意見交換を行う予定です。

 今回は、受講生が6つのグループに分かれ、プレゼンのテーマを検討しました。まずブレインストーミングを行い、自分の住んでいる地域で気になることや困っていることを手あたり次第に挙げていきます。次に、その困りごとが「どんな人にとっての課題か」を吟味し、科学研究や科学技術との関りを探っていきます。しかし、その困りごとがシンガポール国立大学に通う東アジアや東南アジア出身の学生がイメージできるとは限りません。また、日本の高校生はアジアの人たちの困りごとをあまり知りません。そこでAIを使い、日本の高校生とアジアの大学生との共通の関心事や接点を探ってみました。そのAIからの回答を踏まえて話し合い、テーマの絞り込みを行いました。

マインドマップをつくりながらアイディアを出し合う


AIを使って、海外の大学生のものの見方を検討する

 現時点で報告されている各班のテーマは次の通りです。
グループⅠ:使われる側から、使いこなす側へ
      -時間管理と依存対策から考えるインターネット利用-
グループⅡ:都市と環境の共生
グループⅢ:気象災害による公共交通機関への影響
グループⅣ:科学の力と消えゆく緑
グループⅤ:漁獲量の減少について
グループⅥ:水から考える衛生環境:水資源管理と公衆衛生

お互いに出し合った課題から、プレゼンのテーマを絞り込む

 受講生たちは、次回2月15日の講座までリモートツールを使ってグループワークを続け、プレゼン資料を日本語で作成していきます。その過程で、具体的な事例や統計データ、先行研究などの情報収集をしながら、事実の裏付けをしたり、根拠をもって科学技術と結びつけたりしていきます。この作業は、単に困りごとの解決に科学技術を適用し「何ができるか」を語るだけでなく、お互いの社会に根付く価値観を考察しながら「なぜそうする必要があるのか」と議論を深めていく場でもあります。

 第2回目として2月15日に対面で行うグループワークでは、静岡大学に在籍する海外留学生がTAとして加わり、日本語のプレゼン資料を英訳していきます。TAの皆さんの考え方に触れ、「地域の困りごと」に他国から来た学生の視点が加わることで、グローバルな視点に立った議論が展開されることを期待しています。