2024年7月13日(土) 研究力発展コース アントレプレナーシップ講座第1回目を実施しました。

 静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)では、研究力発展コース(第3段階)の受講生を対象に第1回目のアントレプレナーシップ講座を実施しました。会場は静岡大学静岡キャンパス理学部大会議室です。今回のテーマは「研究成果を社会に送り出す」です。

 FSS研究力発展コースに進んだ受講生は、現在静岡大学内の各研究室で研究活動を続けています。研究成果を社会に送り出す手段の一つは学会や論文で研究内容を発表することで、これから受講生たちは外部に向けた研究発表に挑んでいきます。一方で、科学研究の成果を社会に送り出すもう一つの手段は、社会の課題解決のために商品やサービスを作り出すことです。1月から5月にかけて行った研究力養成コースの講座「海外留学生との交流」「放任竹林問題」では、社会課題への視点を培いました。さらに、受講生たちは自分自身の研究を通して新しいアイディアを蓄積してきました。今回のアントレプレナーシップ講座では、これらをもとに起業プランの作成に挑戦します。このプラン作りの過程で、研究の過程で気づかなかった視点を見つけたり、自分のキャリア選択に関するイメージづくりにフィードバックしたりと、理系人材としての自己理解を深めることをねらいとしています。

 今回は受講生たちへの助言者として、5名の方々に講師としてご協力いただきました。
  Aチーム講師:株式会社山崎製作所   山崎かおり 氏
  Bチーム講師:Aerial Base       広林智史 氏
  Cチーム講師:株式会社Happy Quality  宮地誠 氏
 プログラムへの助言:公益財団法人 静岡県産業振興財団 西沢良和 氏
           公益財団法人 静岡県産業振興財団 兼子知行 氏
 いずれも企業の事業開発や経営の専門家の皆さんです。

 第1回アントレプレナーシップ講座に先立ち、事前課題が課されました。事前課題は、受講生自身が研究で扱っている概念、理論、技術の中から、社会実装に転用可能な要素を抽出し、起業や社会普及のプランを作るというものです。受講生は、何らかの社会課題を想定し、①誰の問題を解決しようとするか?②その人はどのような状況にあるのか?③解決するとどうなるのか?何が可能になるのか?④そのために自分の研究ができることは何か?の4つの観点から課題を整理し、3分間のピッチ(短いプレゼン)を準備しました。

 当日は受講生が3つのグループに分かれ、活動の前半に事前課題の発表を行いました。ひとりひとり用意した起業プランを発表し、発表の後に講師からの質問に答え、提案したプランに関する助言を受けます。

4、5人のグループに、講師が一人ずつ付いて討論を行う。

【Aグループ】
 Aグループのメンバーは、動物を研究対象として、その行動、体の構造、生理などを研究しているメンバーです。起業プランのタイトルは次の通りです。
「たけのこホイホイ」
「カエルの皮膚による外用薬」
「ついに愛犬の表情から愛犬の気持ちがわかる時代へ」
「BIODIVERSITY PARK 生物多様性テーマパーク」
 講師の山?氏は、提案者の考えを探りながら、ターゲットの絞り方、実用性、提案者の強みなどについて助言を行いました。

Aグループ講師の山﨑氏。アイディアの核になる発想について、一人一人聞き取りが行われる。

【Bグループ】
 Bグループのメンバーは、情報通信、光センシング、数学などを研究しているメンバーです。起業プランのタイトルは次の通りです。
「テラサイクルボックス」
「可視光通信で医療現場の効率化に貢献」
「次世代3Dモデリングソフトウェア」
 講師の広林氏は、受講生が取り組む研究テーマに基づいたプランが、一般社会の中でどのような立ち位置にあるかという観点から助言を行いました。

Bグループ講師の広林氏。研究で得られたアイディアが、どのように社会に反映されるかを議論する。

【Cグループ】
 Cグループは、微生物の生理機能、昆虫の体の構造、電池を研究しているメンバーです。起業プランのタイトルは次の通りです。
「憧れるの、やめましょう 〜再生医療の実用化のために〜」
「ゾウリムシでレジオネラ症を防ぐ」
「ツルッと滑って農薬いらず! 掴みどころのない防虫ネット」
「水を入れるだけ!!疑似濃淡電池」
 講師の宮地氏は、プレゼンというものが力点の置き方や視点、構成を工夫することで、聞き手の印象が変わってくることを伝えました。

Cグループ講師の宮地氏。自分のアイディアをどのように話したら他人を納得させられるか、アドバイスが行われる。

 FSS受講生たちのプランの一番の強みは、自分の研究やこれまでの講座の中で体験したことを元に提案されていることが一番の強みです。ただ、具体的な物やサービスのイメージがうまく伝えられません。聞き手に関心を持ってもらうためには、イメージを伝える工夫が大切であることを学ぶことができました。

 活動の後半は、株式会社Happy Quality 代表取締役 宮地誠氏の講演です。Happy Quality社は、農業生産のためのインフラサービスカンパニーとして、生産技術から流通、販売に至る農家の支援を業務として行っています。宮地氏には「生産から流通までの、世界のスタンダードを創る」というタイトルで、自ら起業したHappy Quality社の理念や事業展開の紹介を通して、アントレプレナーシップとは何かを高校生に伝えていただきました。

 起業家として成功するために重要な条件が、志を持つこと、言動に責任を持つこと、覚悟が必要なこと、周囲の人たちの共感を得ることなどです。そのためには、自分のやっていることを俯瞰的に眺め、将来的なビジョンを構築するための「視座」を持つことが大切になります。また、実績を元に協力者の信頼を得なければ企業として行き詰まってしまうことなど、会社の経営者という立場から、将来ある高校生たちにメッセージが送られました。

Happy Qualityを起業した宮地氏から、アントレプレナーシップとは何かについて講義を受ける。


学校では聞くことができない起業家の話に耳を傾ける高校生たち。

 企業の事業開発や経営の専門家の皆さんとの討論、実際の起業家のお話をヒントに、受講生たちは約1ヶ月かけて起業プランの再構築を行います。特に、講師や受講生同士からのコメントにあった「イメージが湧かない」という指摘に対しては、この間にプロトタイプづくりを行い、次回は具体的なイメージを写真、イラストなどで提示するように求めました。8月24日(土)に行うアントレプレナーシップ講座の第2回目では、作り直した起業プランを受講生が一人ずつ発表します。

<今回の講座に協力していただいた方々のご紹介>
株式会社山崎製作所 代表取締役社長  山崎かおり 氏
https://www.yamazaki-metal.co.jp/
無人航空機専門サービス Aerial Base  広林智史 氏
https://aerial-base.com/
株式会社Happy Quality 代表取締役  宮地誠 氏
https://happy-quality.jp/
公益財団法人 静岡県産業振興財団
新産業集積グループ 技術コーディネーター 西沢良和 氏
経営支援グループ  事業プロデューサー  兼子知行 氏
http://www.ric-shizuoka.or.jp/