2024年10月20日(日)基礎力養成コース第7回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
2024年10月20日(日)、第7回としてメインレクチャー、サブレクチャーを対面形式で行いました。
メインレクチャーでは、静岡大学農学部応用生命科学科の平井浩文先生に「キノコが地球を救う!-バイオファイナリーとバイオレメディエーション-」というタイトルで講義いただきました。
キノコは木材の分解者であり、森林の生態系維持に重要な役割を担っています。平井先生が着目している白色腐朽菌はキノコの仲間で、木材に含まれる難分解性の高分子化合物であるリグニンを分解できる唯一の微生物です。この特性を利用して、木材からバイオ燃料であるエタノールを安く、効率的に産生することが、平井先生が目指すゴールの1つです。穀物ではなく木材を用いてバイオ燃料を得ることにより、現在危惧されている食糧危機のリスクを回避しつつ、石油燃料に代わる新たなエネルギー源を得ることができれば、持続可能な社会の実現に向けて非常に重要な技術となるでしょう。また平井先生は、遺伝子工学により白色腐朽菌を改良し、次世代燃料として期待される水素ガスや、プラスチック原料となり得る乳酸や酢酸を木材から作り出すことにも成功しています。これらの研究結果は、人間社会が抱えるエネルギー需要問題の解決や、カーボンニュートラル社会の実現につながる重要な成果です。
さらに、白色腐朽菌が環境ホルモンや殺虫剤成分といった環境汚染物質の分解や無毒化にも有効であることが平井先生の研究から分かってきました。白色腐朽菌がエネルギー問題だけでなく、環境問題の解決の一助にもなるのではないかと期待されます。生物資源を原料に燃料やプラスチック原料を製造する施設や技術の事をバイオリファイナリーと呼び、生物機能を利用して環境を修復することをバイオレメディエーションと呼びます。白色腐朽菌はこの両方で有用であり、まさに「キノコが地球を救う」未来を期待せずにはいられない内容の講義でした。
質疑応答では「エネルギー問題を解決するには、どの程度の木材が必要か?」「リグニンのみを分解する白色腐朽菌とは別にリグニンとセルロースの両方を分解する白色腐朽菌がいるのか?」「自然界でも、白色腐朽菌が分解する木材でエタノールが作られているのか?」などの質問が相次ぎ、活発なディスカッションが行われました。生物のもつ能力を知ることが地球環境を救う研究につながることを知り、受講生の知的好奇心を強く刺激する講義でした。
サブレクチャーでは理学部地球科学科 生田領野先生によるワークショップ「理系の文章作成方法(パラグラフ・ライティング)③」を行いました。8月4日と9月29日に続いて最終回です。前回と同じ5-7名の班ごとでの意見交換を行いながら進めました。
パラグラフライティングは論文やレポートなどのサイエンティフィックライティングに用いられる文章構成法で、1つのトピックを1つのパラグラフ(段落)に割り当てるものです。8月の初回では、各パラグラフの要旨となるトピック文に複数のサポート文を続けて、パラグラフを構成するコツを学びました。9月の第2回では、これまでのメインレクチャーの講演を題材に、ストーリーからトピックを抽出して論理構造を見出す作業を班で行い、文章全体の要旨となる序文パラグラフと、続く各パラグラフのトピック文を作成しました。
今回のワークショップの目標は、第2回で取り組んだ文章を完成させることです。前回オンラインホワイトボード上で班ごとに作成した序文パラグラフとトピック文を元に、今回は受講生個々に作文を行いました。
受講生たちはメインレクチャーの資料を参考にしながら、30分の制限時間でそれぞれ文章を作成しました。生田先生から「そろそろ30分」の声がかかった時点で完成させてしまった人もいましたが、納得のいく文章が書けなかった人も多かったようです。生田先生から「書き切ってしまうことが目的ではなく、書いて経験してみることが目的なのです」と声掛けがあり、完成は各自の宿題になりました。
次の時間は予定では相互評価と優秀作文の発表でしたが、予定を変更してパラグラフライティングの難しさについての気づきを班ごとに共有する時間になりました。パラグラフライティングに取り組んでどのような問題を感じたか、どこが書きづらいか、グループリーダーを中心に話し合いました。
最後にグループリーダーが各班の話し合いで共有された気づきを全体に向けて発表しました。出てきた問題はいずれも、生田先生から提示された「パラグラフライティングのチェックポイント」を意識した時に生じるものでした。例えば、一つのトピックが複数のパラグラフにまたがってしまう、文を既知の情報(単語)で始めて未知の情報(単語)を導入することが難しい、トピック文が結論のように感じられるためサポート文が続かない、トピック文に沿って書かなくてはならないためフワッとした表現ができないなどです。生田先生からは、「皆さんが難しいと感じた部分はこれまで曖昧な日本語を上手に使ってごまかせてしまっていた論理の破綻や情報の曖昧さであり、それらが違和感として浮き上がってくることがパラグラフライティングを行うことの恩恵の一つ」と説明がありました。
全3回のパラグラフライティングのワークショップを通して、受講生は情報を誤解なく効率よく伝える理系の文章作成を経験しました。最後に講師の生田先生から「継続して取り組むことが大切です。意識してパラグラフライティングをできるようにしていきましょう」とのコメントがありました。