2024年11月17日(日) 基礎力養成コース 第9回メインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
2024年11月17日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第9回目講座としてメインレクチャー、サブレクチャーを行いました。
メインレクチャーは理学部化学科 小林健二先生による「分子のかたちと集合:分子から超分子へ」です。小林先生は、有機化学の分野の中でも、分子の自己集合(自己組織化)とその機能を調べる超分子化学の研究をしています。小林先生のお話は、有機化学が過去に人類に多大な貢献をしてきたこと、有機化学の中の超分子という新しい分野がさらに大きな可能性を秘めていることなど、高校生に向けて有機化学という学問分野の魅力を伝えるものでした。
最初の話題は、これまでに日本人でノーベル化学賞を受賞した研究者たちのエピソードです。その多くは有機化学の分野から輩出されており、このことからも有機化学という分野に大きな可能性があることが分かります。また、それぞれの研究者が行った新発見には失敗が発端となっていることがあり、偶然から予想外のものが発見されることの重要性を知ることができました。
次に電子軌道と化学結合の話題を中心に、有機分子の形について解説がありました。有機化合物の特徴的な立体構造は、炭素原子のL殻にある1つのs軌道と3つのp軌道によって作られる混成軌道によって決まります。炭素原子は、その混成軌道中のσ(シグマ)電子を使って隣の原子と結合し、これをσ(シグマ)結合と言います。一方、隣り合った2つの炭素原子上に、σ結合の向きに対して垂直の方向に電子が1つずつ回っていると、この電子を使ってπ(パイ)結合ができます。このπ結合に使われた電子をπ(パイ)電子と呼び、π電子が有機分子に多彩な機能をもたらす電子となります。そして有機化合物の複雑な立体構造は、σ結合とπ結合の2つの結合を使って作られていきます。
有機化合物の機能の例の一つが香りです。自然界の花や果物の様々な香りは、有機化合物の立体構造や特定の結合に由来します。似たような化合物でも、ちょっとした構造の違いで、人間にとっては全く違う香りとなります。また、π結合を持つ分子を長く繋ぐことができると、電気を通す高分子を作ることができます。この発明はパソコンのタッチパネルや有機ELディプレイなどに応用され、電子機器の飛躍的な進歩に繋がりました。
このように、分子内の結合とその結果生じる立体構造によって一つ一つの分子の性質が決まります。そして、従来の有機化学では単独の分子の構造や性質に注目し、合成方法や反応機構が解明されてきました。一方、小林先生の研究室では、分子が複数あるいは集団として振舞ったときに発現する、個々の分子では見られない新たな性質や機能に注目して研究が進められています。このような分子の集合組織化を制御することを目的とした学問を超分子化学あるいは分子集合体化学と言います。
この超分子は、複数の分子あるいは分子の集団が弱い力(分子間相互作用)で会合することで分子集合系全体で独自の化学・物理的特性を示し、それが物質の新しい特性となります。このときの弱い力とは、高校の化学の教科書にもあるファンデルワールス力や水素結合などです。小林先生の研究室では、多孔質結晶性分子集合体(ゼオライト)を用いた物質分離技術や個体触媒、分子集合カプセル、分子マシーンなどの研究が行われています。
高校生にとっては有機分子の構造や性質は高校化学の教科書で学ぶものの、超分子という概念には馴染みがありません。講義を聞いた受講生からは、身の回りに超分子があるのかという率直な質問が出ました。小林先生は、細胞膜を例に取り上げ、分子内に親水基と疎水基の両方を持つ両親媒性物質が集合し、2分子膜を形成する様子を丁寧に解説しました。
サブレクチャーは教育学部 室伏春樹先生によるワークショップ「プレゼンテーションの要点」を行いました。
現在、高校の教育課程には「総合的な探求の時間」が設けられ、高校の学習活動の中でも成果をスライドにまとめ、口頭発表する機会が多くなりました。また、FSSの中で研究力養成コース(第2段階)に進む受講生にとっては、6月の研究発表会や科学研究のコンクールなどで口頭発表するときに、見やすいスライドづくりは必須のスキルです。そこで今回のサブレクチャーでは、室伏先生からスライドを作るうえでの基本的な留意点を説明していただき、レポート課題として「最近の科学技術に関する話題で興味を引いたもの」についてプレゼンテーション資料を作成し、スライドを作るスキルを高めていきます。
プレゼンテーション資料を作る上での要点については、次のような項目が挙げられます。
1.発表の原則を決める
(1) 配色
(2) フォント
(3) 画面レイアウト
2.構成を決める
(1) アウトライン
3.伝達手段を工夫する
(1) 袋文字
(2) 図式化
例えば配色は4色を基本として、全てのスライドでこれを利用します。この色の選択を支援するWebサイトとして、以下のサイトが紹介されました。
[ HUE / 360 ] The Color Scheme Application
URL:https://hue360.herokuapp.com/
ここでは、ベースとなる色とアクセントに用いる色を選択すると、見やすい配色を自動的に選んでくれます。これをパソコン内のスライド作成アプリに適用すると、それらの色を利用してスライドを作成することができます。
また、フォントによっては数字の1と英小文字のl(エル)のように見分けにくいものがあります。カタカナのエと漢字の工(こう)も見分けにくい文字の例です。このような見分けにくい文字が見分けられるフォントを選ぶことも、人に見せるスライド資料では大切な要素です。
受講生たちは、各自パソコンを持参し、Web上に公開されているスライド作成アプリを使いながら、配色を選んだり、フォントを選んだりする作業を自分の手で操作してみました。スライド作成アプリには、数多くの機能が埋め込まれており、その画面構成に慣れず戸惑っている受講生も見られました。うまく操作できずにいる受講生に対しては、室伏先生が巡回し、アドバイスをしていきました。
以上を学んだ上で、受講生たちは自宅で課題に取り組みます。課題は、7月の応募時に提出書類の中の「志願書」に書いた「最近の科学技術に関する話題で興味を引いたもの」を5ページ以内のプレゼンテーション資料にまとめるというものです。課題はオンラインで提出し、アウトラインが整えられているか、視認性や可読性が高く作られているかなどを評価していきます。
今回学んだスキルは、これから体験するFSSでの研究発表だけでなく、学校の課題資料を作成する際にも活用されることを期待しています。