2025年11月8日(土) 研究力発展コース 中間報告会を実施しました。
静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)の研究力発展コース(第3段階)受講生は、現在、静岡大学各学部の研究室で指導を受けながら、自ら設定したテーマに基づき研究を行っています。静岡県内、県外各地の高校から集まっている受講生の研究スタイルは人によって異なっており、自宅で実験・観察を進めながら時々大学の研究室に通う人、高校の科学部と大学が連携しながら研究を進める人、工業高校や農業高校の課題研究で生じた問題を深く研究するために大学の研究室に通う人などです。各研究の指導を行う大学教員は高校生の研究に寄り添いながら、実験条件の制御のしかた、実験データの評価、先行研究から得られる理論などについて指導を重ねています。これまでの研究成果について中間報告を行うことでFSSを運営する教員が研究の進捗状況を把握し、受講生に研究の振り返りを促す機会とするため、2025年11月8日(土)に中間報告会を実施しました。
各受講生は、昨年11月ごろから始めた研究の成果をスライドにまとめ、約10分間の口頭発表を行いました。発表後にはFSSを運営する大学教員からたくさんの質問を受け、それに答えていきました。この中間報告は、受講生たちが研究の修正点を見つけたり、研究を深めるための新たな課題に気づいたりと、研究を進める上での節目となりました。
受講生が現在取り組んでいる研究テーマは次の通りです。
【ナミハダニと植物の共生的相互作用について】
インゲンなどの害虫とされているナミハダニが、吸汁行動によって植物に対してポジティブな刺激を与えているのではないかという仮説に基づいた実験を行った。
【梅シロップで薬を作る】
アミグダリンは杏仁や青梅に含まれ、鎮咳の漢方薬の成分である。飲みやすい鎮咳薬の開発ため、青梅からシロップをつくり、アミグダリンの含有量を調べた。
【アラブ諸国におけるギフテッド教育の現状と動向 〜北欧・日本の動向を踏まえて〜】
「世界の国々はどのように“ギフテッド”と向き合っているのか?」という問題意識の下、北欧、アラブ諸国、日本のギフテッド教育への取り組みを比較した。
【植物成長促進物質の探求 乳酸菌と放線菌編】
市販の乳酸菌食品に用いられているガセリ乳酸菌の添加が、植物の成長を促すという現象について、成長に有効な物質の特定を試みた。
【リゾチームが腸内細菌に与える影響】
細菌の細胞壁を分解する酵素であるリゾチームが、腸内のビフィズス菌や大腸菌などの個々の細菌の増殖にどのような影響を与えるかを明らかにしようとした。
【パラシュートの研究Ⅳ ~周囲の気流とパラシュートの関係性~】
パラシュートの傘の中央に穴をあけると、落下速度が小さくなる。この理由を知るために、穴の有無による傘の周囲の気流の変化を明らかにしようとした。
【メダカの脳における記憶とAMPA受容体の関係について】
メダカの脳における記憶の処理について、神経伝達物質を受容するAMPA受容体遺伝子の存在確認と、メダカの記憶学習の有無による発現量の比較を行った。
【ダルマメダカにおける給餌シグナルに対する定位行動と新規環境に対する警戒行動】
脊椎骨の癒着により体長が短いメダカ(ダルマメダカ)について、給餌シグナルに対する集まりやすさや環境を変えた時に起こる警戒行動を通常メダカと比較した。
【サツマイモの水耕栽培で空気が根の成長に及ぼす影響】
サツマイモについて、安定な収穫を得るために水耕栽培の可能性を探った。栽培初期において、ポンプによって強制的に空気を供給した時、根の成長が促進するかを確かめた。
【ケルビン水滴発電機の充電と活用 静電気の実用化に向けて】
水滴をコイル中央に落下させると発生する静電気について、より効率的に静電誘導が起こり、長時間継続的に水滴を落とすことで、より多く充電できる装置の開発を行った。
【金属における摩擦係数の温度依存性とそのメカニズムの考察】
物体同士が接触し運動することで生じる摩擦について、接触する金属の組み合わせを変え、温度による摩擦係数の変化を調べた。
【クワガタムシ幼虫に見られるメス斑とは何か?(共同研究)】
クワガタムシ幼虫に見られるメス斑には、メスの親に見られる菌嚢内の酵母と同じものが含まれることを証明した。同時に、メス斑が卵巣原基であるという通説を否定した。
【黄緑型ナミハダニに対するポポー葉の忌避効果の検証(共同研究)】
ポポー(モクレン目バンレイシ科)が、農作物に対する害虫とされる黄緑型ナミハダニの忌避効果が認められるかを調べ、環境負荷の少ない防除方法の開発を試みた。
【泥の電池の音による発電量向上と実用化の検討】
湖底の泥の中に生息する発電菌に着目し、泥から電気を取り出せるかを試みた。同時に、様々な周波数の音を与えるなど、発電量が増加する条件を探った。
【ケイ素肥料の施用量がコマツナ、レタス、ニンジンの生育に与える影響】
地殻に多く含まれるケイ素化合物の肥料としての有用性について、有用性が認められているイネ科以外の作物に施肥したときの生育データを集めた。


佐和田さんが、静岡大学理学部 日下部誠先生の指導の下で行ったダルマメダカの研究は、サイエンスカンファレンス 2025(主催:科学技術振興機構)で審査委員長特別賞を受賞した(2025年11月3日)。


石橋君 石塚君が、静岡大学理学部 後藤寛貴先生の指導の下、共同で行ったクワガタの研究は静岡県学生科学賞静岡県知事賞を受賞し、中央審査(全国大会)に進出した(2025年11月22日)。
発表後、受講生が教員の質問に答えることで、「これまで得られたデータが、自分の立てた仮説を検証するために十分な根拠となりうるか」ということに気づくことができます。これは、科学研究を進める上で重要な作業です。既に研究力発展コースの受講生たちは、県や全国レベルの科学研究コンテストで入賞したり、大人の研究者に交じって学会で発表したりするなど、積極的な研究成果の発信にも取り組んでいます。学外での発表の場で静岡大学以外の専門家から助言を得ることも、研究を深める上で大事な経験となっています。
受講生たちは今回の中間報告で得た視点を元に、さらにこれから約5か月間静岡大学での研究を続け、3月末にFSSで行う研究発表会に臨む予定です。また、優れた研究成果を得たとみなされた受講生を、3月末にインドネシアに派遣します。インドネシアでは現地大学生との研究発表を通じた交流、産業の視察、自然環境の観察や体験などが計画されています。