2025年12月21日(日) 基礎力養成コース第10回 特別メインレクチャーと2024年度入校生との交流会を行いました。

 2025年12月21日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第10回目講座として特別メインレクチャーと2024年度入校生との交流会を行いました。

 特別メインレクチャーは国立研究開発法人日本原子力研究開発機構の朝日さおり氏による講演「知的好奇心のその先へ! ~なりたい自分をイメージする~」でした。今回の講演は、進学、就職、転職という人生の岐路において、講師の朝日さんが好奇心を重視したキャリア選択をしてきたというお話です。その朝日さんのキャリアの中には、進学、就職、結婚と転職という3つの大きなターニングポイントがありました。

特別メインレクチャー講師の日本原子力研究開発機構 朝日さおり氏。

 1つめのターニングポイントは大学院進学でした。朝日さんは静岡大学理学部物理学科で生物物理学を専攻し、生物のミクロなしくみを学んでいました。学生生活の傍ら趣味の野鳥観察をしていると、カラスがある特定の声で鳴くときに天敵のタカが出現し、そのタカを皆で追い払う様子に気が付きました。「声と行動に関連性があるのか?」ということが気になった朝日さんは、静岡大学理学部生物科学科にある動物行動学の研究室を訪れ、そのまま大学院に進み生物学の研究をすることになりました。その研究室では、ハシブトガラスとハシボソガラスという、私たちの身近な環境にいる2種類のカラスの生態を追う日々が始まりました。

静岡大学大学院在学中は、カラスの研究をしていた。

 2つめのターニングポイントは就職でした。静岡の食品メーカーに就職した朝日さんは、商品開発部のペットフード部門に配属されました。大学院での研究が活かせる部署での仕事でしたが、入社3年目に海外視察に参加したことがきっかけとなり、自ら立候補してタイに赴任し海外工場の商品開発部門の立ち上げに取り組むことになりました。海外での商品開発は、国によって食品安全の規制が異なること、原料の輸送や検疫などの日程調整が複雑なこと、日本と海外での仕事のスピード感が違うこと、英語によるコミュニケーションなど克服しなければならないことがたくさんあったそうです。

 3つめのターニングポイントは結婚と転職でした。結婚を機に食品メーカーを退職し、茨城に移り住むことになりました。新生活が落ち着いたところで、朝日さんは転居先にあった日本原子力開発機構で事務職のアルバイトとして働き始めました。新しい職場では、事務作業の効率化を積極的に上司に働きかけていくことで次第に能力が認められ、アルバイトから任期付きの常勤職員、さらに正規職員へとキャリアアップを果たすことができました。現在は、原子力安全・防災研究所で緊急時対応の研究と防災ための人材育成に取り組んでいます。

朝日さんは好奇心を原動力にしてキャリアアップが叶った。

 今回の講演の中で、朝日さんは「『新しく学びたい、挑戦したい』に遅すぎることはない」という強いメッセージをFSS受講生に伝えてくれました。「もし枝分かれした道が目の前にある場合、皆さんは何を根拠に道を選びますか?人生は星の数ほどもある選択肢の中から自ら必要なものを選び取っていかなければなりません」「将来のことを考えて不安になることもあるかと思いますが、焦らず、自分が何をしたいか?を具体的にイメージしていきましょう」という高校生への励ましの言葉と共に、未経験の課題に対する恐れではなく、新しく学ぶことが楽しいと感じながら歩み続けている姿を通してキャリアへの向き合い方に触れることができた特別メインレクチャーでした。

受講生から進路選択などに関する質問が相次いだ。

 後日受講生から提出された振り返りレポートの感想欄には、次のような記述がありました。「今回講義を聞いて、とりあえず挑戦してみるというマインドの大切さを知ることができ、考え込むよりもっと楽に1歩を踏み出すことが重要だと知りました。研究者においてもそういう何気ない1歩が大きな発見に繋がるのだなと思うので、まず行動に移すことを意識して次のFSSや生活に活かしていきたいと思います。」「知的好奇心のその先へ進み続けるためには自分の垣根を超えて常に好奇心のアンテナを張っておくことが大切であるという考えに大きな説得力を感じました。」高校生が自分の将来と照らし合わせながら、新たなキャリア選択の考え方に出会えたという新鮮な感動が述べられていました。

 後半は、2024年度に入校し現在研究力発展コースに在籍している受講生の代表3名が、約1年間の研究成果を発表しました。彼らの発表は、11月2日・3日に、日本科学未来館において行われた、グローバルサイエンスキャンパス等の受講生の成果発表全国大会であるJSTサイエンスカンファレンス2025で、静岡大学FSSの代表として発表されたものです。

 最初は、静岡県立掛川西高等学校の鈴木悠輝さんによる「サツマイモの水耕栽培で空気が根の成長に及ぼす影響」の発表でした。鈴木さんの研究は、サツマイモについて、安定した収穫を得るために水耕栽培の可能性を探ったものです。栽培初期において、ポンプによって強制的に空気を供給した時、根の成長が促進するかを確かめました。

研究力発展コース 鈴木君の、サツマイモの水耕栽培の研究が紹介される。

 2番目は、名城大学附属高等学校の劉鈞霖さんによる「金属における摩擦係数の温度依存性とそのメカニズムの考察」の発表でした。この研究は、JSTサイエンスカンファレンス2025で優秀賞を受賞しました。劉さんの研究は、物体同士が接触し運動することで生じる摩擦について、接触する金属の組み合わせを変え、温度による摩擦係数の変化を調べたものです。

研究力発展コース 劉さんの金属同士の摩擦に関する研究が紹介される。

 3番目は、名城大学附属高等学校の佐和田裕花さんによる「ダルマメダカにおける給餌シグナルに対する定位行動と新規環境に対する警戒行動」の発表でした。この研究は、JSTサイエンスカンファレンス2025で審査委員長特別賞を受賞しました。佐和田さんの研究は、脊椎骨の癒着により体長が短いメダカ(ダルマメダカ)について、給餌シグナルに対する集まりやすさや環境を変えた時に起こる警戒行動を通常メダカと比較したものです。

研究力発展コース 佐和田さんのダルマメダカの行動に関する研究が紹介される。

 これから研究力養成コースに進む2025年入校の受講生たちは、自分が取り組もうとしている研究へのヒントをつかもうと、先輩たちの発表を興味深く聞いていました。振り返りレポートには、次のような感想が書かれていました。「鈴木さんは、自宅のサツマイモの基腐病という身近な出来事をきっかけに研究を進めており、日常の中に研究の種があることを学びました。」「劉さんの研究は、身近な現象を深く掘り下げた非常に印象的な発表でした。普段は教科書で当たり前のように学んでいる内容に対しても、『本当にそうなのか』と問い直し、教科書の常識を覆す可能性があると語っていた点がとてもかっこいいと感じました。」「佐和田さんの研究では、ダルマメダカと普通のメダカの行動の違いを、複数の実験によって明らかにしていた点がとても印象に残りました。給餌時の反応や新規環境への警戒行動を、条件をそろえて比較することで、警戒心の違いを定量的に示していたのが分かりやすかったです。」「日頃から身の回りの物事に対して、ただ鵜呑みにするのではなく、『なぜだろう』という疑問や『異なる状況ではどうなるのか』という発想を大切にして過ごすことで、新たな謎を発見できると考えました。」

 静岡大学FSSが掲げる6つの「つなげる力」のうち主に「分野横断的な発想力」「研究を社会の課題解決へつなげる視点」の獲得を目指した基礎力養成コースは、この第10回講座をもって終了です。受講生の中で二次選抜の選考を経た人たちは、研究力養成コースに進み「発想を成果につなげる研究遂行力」「研究成果を外部に発信する挑戦力」を養います。すでに11月下旬から静岡大学各研究室の研究者と受講生との間で、自分の研究テーマに関する打ち合わせが始まっています。また1月からは、約1か月に1回の割合でワークショップを行い、「課題解決を目指した討論力」「世界とつながる国際性」を身に着けていきます。