成功と失敗 – 間違える力 –

 高校生の皆さんが課されている一般的な「テスト」では、設問に対して “正しく解答” し、 “誤りがない” ことが目標とされます。そういった「試験」を含めて、何ごとも、間違えるよりは正しくありたいというのが人の常です。

 しかし、視野を広く取れば「失敗」は必ずしも悪いことばかりではありません。特に、研究の世界では、成功した研究者は全員「失敗の専門家」であると言っても過言ではありません。ノーベル賞を取った方々にも、失敗から新しい研究の芽を育てた経験があることはよく知られています

 実はこれには理由があるのです。

 『成功は偶然、失敗は必然』という言葉があります。何かが成功するということは、そこに至るまでの様々な事柄が想定どおりにうまくいった結果ですが、それが本当に「なるべくして必然的になっていたのか」「本当は偶然ではなかったのか」については、成功の場合には詳しく検証されないことが多いようです。一方で、失敗を分析すると、そこには様々な原因がはっきりと見えてきます。その原因を理解し、対応することで、次のチャンスでの「より確実な成功」を狙うことができるようになります。

 また、「成功」はもちろん良いことではあるのですが、一度偶然に大きく成功してしまうと人はその成功パターンに固執してしまうことがあります。 “成功体験” は、上手に扱わないとその後の行動を縛ってしまうのです。一方、 “失敗体験” はその後の反省を促し、継続的に考え続ける力を養うことができます。「最初の失敗」を深く考えることでもたらされる「2番目の成功」は、ビギナーズラック的な「偶然の成功」よりも学問として意義があります。

 そうした “失敗と成功の繰り返し” のプロセスこそが「研究」のとる筋道です。学問とは、決して成功の連続ばかりで成り立っているわけではありません。むしろ、 “数多くの失敗の積み重ね” によって出来上がっていると思ってください。

 皆さんも、「失敗は当たり前」という姿勢でいろいろな物事に挑戦してください。FSSを通じて皆さんに本当に学んでほしいことは、「結果の良し悪し」へのこだわりではなく
「未知の対象に挑戦し続ける姿勢」それ自体だからです。

[田中耕一『生涯最高の失敗』,朝日新聞社刊, 2013]

FSSニュースレター2018第2号より)