卵の割れやすさを科学する
とあるWebサイトにこんな記事が出てました(2025/05/15)。
ぜひ読んで下さい。
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「卵が割れやすい向きの落とし方、通説覆る 240個使った実験で判明」
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この記事によると、
「卵を落とすとき、どの向きが割れやすいか?」について、従来は、「尖った方を下にして落とすと割れにくい」とされてきましたが、米マサチューセッツ工科大(MIT)などの研究チームによる最近の実験でその通説が覆され、「横向きに落とす方が割れにくい」という結果が得られたとのこと。
この発見は、物理学や材料工学の視点から卵の構造を考察する良い機会を提供しています。卵の形状や殻の厚さ、落下時の衝撃など、さまざまな要因が割れやすさに影響を与え、これらの要素を科学的に分析することで、日常生活の中での物理現象を深く理解することができそうです。
原著論文は物理学の専門学術誌「Communications Physics 8: 182 (2025)」に掲載済み。
Antony Sutanto, Suhib Abu-Qbeitah, Avishai Jeselsohn, Brendan M. Unikewicz, Joseph E. Bonavia, Stephen Rudolph, Hudson Borja da Rocha, S. Kiana Naghibzadeh & Tal Cohen,
Challenging common notions on how eggs break and the role of strength versus toughness.
Commun Phys 8, 182 (2025). https://doi.org/10.1038/s42005-025-02087-0
この原著論文には、下記のようなことが記されているらしい。(詳細は原著論文を要確認)
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この研究は、物理の教育現場でよく取り上げられる「エッグドロップチャレンジ」における卵の破損耐性に関する通説を見直すものである。従来、卵は縦方向、すなわち尖った端または丸い端を下にして落とす方が壊れにくいと信じられてきたが、本研究はこの常識に異を唱える。著者らは200個以上の卵を用いた静的圧縮試験と動的落下試験、さらに数値シミュレーションを通して、卵は水平方向、すなわち赤道面で力を受けた方が壊れにくいことを実証した。
静的試験では、卵を縦置き・横置きにして圧縮した際の最大破壊力はほぼ同等であることが確認された。一方で、横向きに配置した卵は破壊までにより大きな変位を許容し、すなわちより多くのエネルギーを吸収することができた。このエネルギー吸収量は、力-変位曲線の下の面積から定量化され、横向きでは約30%大きかった。これは「剛性」(stiffness)ではなく「靭性」(toughness)が卵の破壊耐性に重要であることを示している。
続く落下試験では、3種類の高さ(8, 9, 10 mm)から卵を落とし、破損の有無を記録した。縦向き(尖端または鈍端)と比較して、水平方向に落とした卵の方が破損率が有意に低かった。数値シミュレーションによっても、静的試験で得られた力学特性に基づき、同様の傾向が再現された。横向きの方が接触時間が長く、力がゆっくりと加わることで衝撃を緩和していると考えられる。
本研究は、構造物の「強さ」を剛性ではなく、衝撃時のエネルギー吸収能力=靭性で評価すべきことを明確にし、従来の「縦の方が強い」という教育上の説明が誤解を生んでいることを警告する。卵の構造が自然界に見られるドームやアーチ構造に類似している点に着目しながらも、実際の破壊メカニズムは単純な「アーチ理論」だけでは説明できないとする。
この成果は、教育現場における物理の指導法を見直すきっかけとなるだけでなく、自然界および工学分野におけるシェル構造の設計や保護装置の開発にも応用可能な知見を提供するものである。
240個の卵を使った実験で、「横向きに落とす方が割れにくい」という結果が得られたのです。
この発見は、物理学や材料工学の視点から卵の構造を考察する良い機会を提供します。卵の形状や殻の厚さ、落下時の衝撃など、さまざまな要因が割れやすさに影響を与えます。これらの要素を科学的に分析することで、日常生活の中での物理現象を深く理解することができます。
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私たちは学校やテレビ、本などを通じて、さまざまな「通説」や「常識」と呼ばれる知識を耳にします。上記の例のように、「卵の尖った方を下にして落とすと割れにくい」という通説を聞いたことがある人も多いでしょうが、しかし、実際に科学的な実験を行ってみると、この通説は必ずしも正しくないことが分かります。つまり「みんながそう言っているから正しい」という考えは、必ずしも真実ではないということです。
このように、通説が常に真実とは限りません。では、どうすれば真実に近づけるのでしょうか? 大切なのは「自分の手で確かめる」ことです。例えば理科の授業で出てくる「重い物の方が速く落ちる」という昔の考え方。実際には、空気抵抗がなければ軽い物も重い物も同じ速さで落ちることがガリレオの実験で確かめられています。もし皆さんが紙と消しゴムを同時に落とす実験をしてみれば、紙がゆっくり落ちるのは空気抵抗のせいだと気づけるでしょう。さらに紙を小さく丸めて消しゴムと落とすと、ほとんど同時に床に着きます。こうした身近な実験が、「本当はどうなのか」を知るきっかけになります。
また、日常生活の中にも調べられるテーマはたくさんあります。「ペットボトルの水は冷蔵庫のどの場所に置くと早く冷えるか」「洗った手をタオルとドライヤーのどちらで乾かす方が衛生的か」など、誰もが気になるけれど答えを知らない疑問は身の回りに溢れています。自分で仮説を立て、方法を考え、結果をまとめてみると、教科書で学ぶだけでは得られない発見や驚きが生まれます。
科学の面白さは「知識を受け取る」だけでなく、「自分で確かめてみる」ことにあります。通説に疑問をもち、実際に調べてみる勇気を持ったとき、皆さん自身が “研究者の卵” になるのです。そしてその後の多くの経験こそが、成長の糧となり、新しい発見への第一歩になるでしょう。研究者として”大空へ飛び立つ” ための第一歩を踏み出しすのは “今” かもしれません。
https://www.asahi.com/articles/AST5G1RFMT5GUTFL004M.html
卵が割れやすい向きの落とし方、通説覆る 240個使った実験で判明
朝日新聞(水戸部六美)2025年5月15日 6時00分
https://doi.org/10.1038/s42005-025-02087-0
Antony Sutanto, Suhib Abu-Qbeitah, Avishai Jeselsohn, Brendan M. Unikewicz, Joseph E. Bonavia, Stephen Rudolph, Hudson Borja da Rocha, S. Kiana Naghibzadeh & Tal Cohen,
Challenging common notions on how eggs break and the role of strength versus toughness.
Commun Phys 8, 182 (2025).