2024年1月21日(日) 研究力養成コース第1回として講演「科学者・技術者のキャリアパス」とワークショップ「海外大学生との交流」を行いました。

 2024年1月21日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は基礎力養成コースの第1回目講座として講演「科学者・技術者のキャリアパス」とワークショップ「海外大学生との交流」を行いました。
 
 講演はヴェオリアジャパン株式会社 上級人事ビジネスパートナー 倉持孝博氏を講師に迎え、「キャリア・キャリアパスの考え方」をお話しいただきました。今回の講座を受けることで、キャリアパスの本質や考え方、キャリアパス開発の進め方を学び、FSS受講生がキャリアパスの積極的なプランニングやキャリアパス設計に向けて行動できるようになることを目指します。

講師のヴェオリアジャパン株式会社 上級人事ビジネスパートナー 倉持孝博氏。

 2000年ごろまで日本の企業では終身雇用が守られ、働く側には組織への貢献が求められてきました。ところが2000年代に入り、世界の経済情勢の影響や企業のグローバル化が進んだことから、次第に労働環境が職務内容を明確にした雇用形態であるジョブ型雇用に移行していきました。そのため、何かの仕事に就こうとする時、若い時から積極的にキャリアパスを考え、長い職業人生を見通し、自分の意思で仕事を選ぶという個人を重視した行動が求められる時代となりました。

終身雇用制が終わりを迎え、自らが積極的な仕事選びをする時代になった。

 しかし、知っている仕事には就けますが知らない仕事には就けません。そこで重要になるのが、キャリアパス構築に必要な興味・意志(Interest)、就業機会(Opportunity)、能力(Capability)の3つの要素です。自己理解を深めること、仕事を探索していくこと、自分の将来を見通すこと、自分のスキルを磨くことなどを通して、自分の中にこの3つの要素を有機的に繋ぎ合わせながら構築していきます。さらに行動(Action)によって、この3要素を拡張する努力をすると、キャリアの実現確率が上がることになります。
 さて、これまで日本の終身雇用型の社会では、社外で自己啓発に努める人の割合が諸外国に比べ極端に少なく、「会社の仕事をやっていれば良い」という風潮が培われてきました。しかし、この風潮がジョブ型雇用の社会ではキャリアの停滞を招きます。もしFSS受講生が科学者・技術者としてキャリア構築を目標に掲げるならば、まずは小さな目標から実践することを心がけ、キャリアパスの3要素Interest、Opportunity、Capabilityを継続的に拡張しようと行動(Action)を起こし、自らの可能性を広げていく人材となることが望まれます。

受講生からの質問に、英語学習や学位取得など自己啓発の重要性が強調される。

 講演の後、受講生からはたくさんの質問が出されました。「ジョブ型雇用と終身雇用での働き方の違い」、「海外でキャリアを積みたいが、どのタイミングで海外に行くのが良いか」、「自分の目標に対しストレスを感じやすい時、どうしたら良いか」などです。これらの質問に対して講師の倉持氏からは「ジョブ型雇用では、自分に合った職務内容の仕事を自分で探すことになる」、「自分の意思で行動し選択することが重要」、「海外では自分が心地よいことが仕事を選ぶ基準となっている」など、高校生の背中を押すような助言をいただきました。

 後半は、ワークショップ「海外大学生との交流」として、海外の大学生に向けて行うプレゼンテーションの準備を行いました。受講生に提示された課題は「『地域』の困りごとを科学的に解決」です。静岡県をはじめとして愛知県など7つの府県から集まっている受講生たちが、自分たちが住む地域特有の課題に焦点を当てて、その解決方法を提案します。プレゼンテーションをする相手は、シンガポール国立大学(NUS)で日本語を学ぶ理系大学生です。ただ、この大学生の皆さんは日本に関心を持つものの、日本のローカルな事情は分かりません。そこで、自分たちが取り上げた地域特有の課題の背景を、NUSの学生が興味を持つようにしっかりと説明することが必要になります。そして、そのプレゼンテーションを英語で行い、質疑応答を通して相互理解を図るのが活動のゴールです。

2月、3月に行うワークショップに向けた準備が説明された。

 プレゼンテーションまでのスケジュールは次の通りです。まず今回はグループワークを行い、受講生が住む地域にどんな課題があるかを出し合います。その中から、次回2月18日までにプレゼンテーションに用いるテーマを1つに絞り、日本語の発表資料を作成します。2月18日の回は、グループワークに外国人留学生がTAとして加わり、日本語の資料をもとに英語の発表資料を作成していきます。3月10日の回ではNUSの大学生とリモートで繋ぎ、英語と日本語の両方で発表を行い、英語と日本語の両方で質疑や討論を行います。

グループワークで地域の困りごとを洗い出す作業を行う。

 スケジュールの説明の後、受講生たちはグループワークで自分が住む地域の課題について情報交換を始め、付箋などに書き出しながら発表内容の検討を始めました。同じ日本の中でも、隣の県同士で異なる課題があったり共通の困りごとがあったりと、話し合いは和気藹々と進んでいきました。話し合いの足りないところは、自宅からリモートで情報交換を続けていきます。

次回のプレゼンに向けて、メンバーの意見を整理する作業を行う。

 後日、リモートで協議した結果が報告されました。各グループで取り組むテーマは次の通りです。
グループⅠ:三保海岸のゴミ問題
グループⅡ:道路上のマンホール等での転倒防止について
グループⅢ:放置竹林の活用方法
グループⅣ:地域の交通問題
グループⅤ:生活排水問題と水質改善
グループⅥ:野生動物による被害と対策
この活動を通して、研究者に必要な英語活用能力とプレゼンテーション能力の向上を図ります。