2024年3月10日(日) 研究力養成コース第3回として「海外大学生との交流③」を行いました。

 2024年3月10日(日)、静岡大学未来の科学者養成スクール(FSS)は研究力養成コースの第3回講座としてワークショップ「海外大学生との交流③」を行いました。

 今回の内容は、シンガポール国立大学(NUS)で日本語を勉強している理系大学生との交流です。シンガポール国立大学は、1905年に設立された総合大学で、アジアはもとより世界でもトップクラスの評価を得ている大学です。また、100カ国以上の国々から多様な文化的背景を持った留学生を迎え、国際色の豊かな大学であるという特徴を持っています。今回のワークショップを実施するにあたり、シンガポール国立大学で日本語を教える森川先生がコーディネーター役を務め、参加する大学生を募っていただきました。そのシンガポールの大学生と日本の高校生をオンラインでつなぎ、日本の高校生が用意した地域課題の解決方法について意見交換を行いました。

 受講生たちは、約2ヶ月にわたり発表の準備をしてきました。前々回1月21日に実施したグループワークから約1ヶ月かけて「地域の困りごととその解決方法」について日本語のスライド資料の作成を行いました。前回2月18日の講座では、静岡大学に通う外国人留学生がTAとして各グループに加わり、スライド資料を英訳するとともに、外国人にもわかりやすくする作業に取り掛かりました。この作業はオンラインでも継続され、グループ毎に英語の発表資料を作り上げました。各グループのタイトルは次のようなものになりました。

GroupⅠ:Garbage Challenge at Miho Coastline
GroupⅡ:Manhole Safety: Steps to Avoid Accidental Falls
GroupⅢ:The Utilization of Abandoned Bamboo Forest
GroupⅣ:Traffic Issue in Shizuoka Prefecture
GroupⅤ:Promote the restoration of Lake Sanaru
GroupⅥ:Damage Caused by Wild Animals and The Measures to Prevent It

ブレイクアウトルームの機能を使い、高校生のグループとNUSの大学生の組み合わせを変えながら、3回のミーティングが行われた。

 シンガポール国立大学(NUS)の学生とFSSの高校生がオンラインでつながると、まず委員長の粟井先生から、日本の中での静岡の位置や静岡大学の紹介が行われました。また、NUSの森川先生からシンガポールの学生が紹介されました。お互いの紹介が終わると早速グループに分かれて、FSS受講生が用意した「地域の困りごととその解決方法」を発表にとりかかりました。

ミーティングの前に、粟井委員長から静岡や静岡大学の紹介がおこなわれた。


NUSの森川先生からシンガポールの大学生が紹介された。

 グループIは三保海岸のゴミ問題を取り上げました。世界文化遺産にも指定されている海辺の環境がゴミに汚染されている実態を示し、ゴミの種類や発生原因を伝えました。NUSの学生が日本語で質問したのに対して、高校生が答えた日本語が難しく話が噛み合いません。TAと協力し平易な日本語と英語を交ぜながら議論の接点を探していきました。

グループIは世界文化遺産「三保の松原」の前に広がる海岸のゴミ問題です。ゴミの多くを占めるプラスチック製品を生分解性プラスチックで置き換えようという提案です。

 グループIIはマンホール上での転倒防止を取り上げました。摩耗したマンホール上で、雨天時に二輪車などが転倒事故を起こす危険性があり、地域の観光振興を兼ねたデザインマンホールで摩耗を可視化させるアイディアなどが提案されました。NUSの学生からは、特殊なマンホールを設置したり管理したりするためのコストが指摘されました。

グループIIは雨の日にマンホール上で起る自転車などの転倒事故を取り上げました。これをデザインマンホールで解決しようというアイディアを発表しました。

 グループⅢは放置竹林の問題を取り上げました。日本人の暮らしと竹林の関わり、竹林の拡大によって引き起こされる問題を説明し、解決方法として身近な生活用品や肥料、芳香剤などへの活用を提案しました。NUSの学生からは、高校生の提案が短期的なものなのか長期的な解決を目指したものなのかという質問がされました。

グループⅢからは、日本で増加する放置竹林のデータが示されました。静岡でも近年増加傾向にあります。解決方法として、様々な竹材の活用方法が提案されました。

 グループⅣは「静岡県の交通問題として」浜松市、富士市、藤枝市で郊外の人口が少ない地域に住む高齢者は、移動のための交通手段が限られている現状を取り上げました。解決方法としてAIなどを活用した公共交通システムが提案されました。NUSの学生との議論では、ローカルな課題の解決方法を、グローバルな視点で俯瞰した議論ができました。

グループⅣは、メンバーが住む地域の交通問題を持ち寄りました。各地域で進む高齢化と公共交通の課題に対し、新しい技術を用いた交通システムが紹介されました。

 グループⅤは「佐鳴湖の浄化を促進するには」というテーマを取り上げました。生活排水によって水質の悪化した現状や、原因となる化学物質を除去する方法が提案されました。NUSの学生からは、佐鳴湖周辺の環境のイメージや棲息する生物の様子が質問され、なぜ日本の都市周辺で水質浄化が必要なのかを議論しました。

グループⅤは、生活排水の流入で水質汚染の課題を抱える浜松市の佐鳴湖を取り上げました。化学や生物学を応用した水質汚染対策技術が紹介されました。

 グループⅥは「野生動物による被害と対策」を取り上げました。野生動物が人間の生活圏に出没することの影響を説明し、不妊化ワクチンなどで個体数を調節することが提案されました。NUSの学生は野生動物の多様性を保護する視点から、日本の高校生は野生動物の数のコントロールで生活環境を保護する視点から意見交換がされました。

グループⅥは、人里に現れる野生動物を取り上げました。被害の様子、原因などについて、実際に地域の人たちに調査を行い、新たな視点での解決策を提案しました。

 国際性豊かなNUSの学生たちが話す英語は、高校生たちが学校やTV番組で聞く英語と異なり上手く聞き取れない場面もありました。また逆に、高校生が日本語で説明した用語が難しい場合や、英語が伝わりにくいケースもあり、NUSの学生に何が課題なのかが伝わらないということも起こりました。その時に、静岡大学に通う留学生がTAとしてお互いのイメージを擦り合わせるように議論を導いていきました。

日本の高校生たちの発表に対し、NUSの学生から質問が出される。聞き取れなかった英語については、静岡大学のTAが助けてくれる。

 グループ毎の発表と討論が終了すると、日本の高校生の希望者とNUSの学生との間で引き続き交流会が設けられました。静岡大学のTAが司会を務めながら和やかな雰囲気で話し合いが続きました。NUSの学生の中には日本に旅行に来たことがある人もいて、日本文化に強い興味を持っていることが分かりました。また、高校生は海外の大学制度や大学入試制度への関心が高く、FSSでの体験をもとに将来国際的に活躍する受講経験者が現れてくることが期待されます。高校生にとって、言語ばかりでなく文化的背景や価値観も異なる海外大学生との交流は、多様な視点を想定して議論をすることの大切さを体験する機会となりました。

NUSの大学生と静岡大学に通う外国人留学生(左上)との間でも交流が行われた。


予定されたプログラムを終えた後、希望者が残りNUSの学生との話し合いが続いた。